第27話 騎士道の葬列と鋼鉄の洗礼
本日2話目
【七月:決定的な決裂】
学園の期末試験最終日。ラザフォード学園の大講堂は、氷点下の緊張感に包まれていた。
事の発端は、エドワード・フォン・バレンシアがリヒトに叩きつけた一通の「挑戦状」だ。
「リヒト・フォン・アステリア! 貴様の姑息な兵糧攻めには屈しない。……この夏、我がバレンシア公爵家の精鋭騎士団と、貴様の『私兵』で模擬戦を行え。貴様のまやかしを断ち切り、伝統ある騎士の真実を証明してやる!」
全校生徒の前での公開挑発。エドワードの背後には、アステリアの経済支配に不満を募らせる保守派貴族たちが勢揃いしていた。
(……やれやれ。P/L(損益計算書)を見れば勝負はついているというのに、現場の人間というのは数値よりも感情を優先したがる。旧態依然とした組織が倒産する典型的なパターンだ)
リヒトは冷たく笑い、眼鏡の位置を直した。
「いいでしょう。……ただし、場所は我がアステリア領の特別演習場。……君たちが信じる『誇り』という名のコストの、耐用年数をそこで検証して差し上げます」
【八月:アステリア領・特別演習場】
真夏の太陽が焦がすアステリア領。
バレンシア公爵率いる「王国最強」の重装騎士団五百騎が、鋼鉄の鎧を光らせて陣を敷いていた。対するリヒトの陣営には、わずか五十人の歩兵と、テントで覆われた数台の「荷車」があるのみ。
「……リヒト様、全システム、グリーンです。ヨハンの組んだ新型の同調も完了しました」
カイル(十一歳)が戦術無線機越しに報告する。
「よし。……『騎士道の葬儀』を始めろ」
エドワードが抜剣し、号令を下した。
「突撃ィ! まやかしの鉄片を粉砕せよ!」
地鳴りを立てて突進する五百の重騎兵。その光景はまさに圧巻であり、観覧席の貴族たちからは歓声が上がった。だが、リヒトが指を鳴らした瞬間、世界のルールが書き換わった。
「第一フェーズ。アウトレンジからのコスト削減だ」
轟音。
数キロ後方に配置された、ヨハン(十二歳)開発の「十五センチ榴弾砲」が火を吹いた。
魔法も奇跡も存在しないこの世界において、それはただの「物理的な破壊」だ。エドワードたちの目の前の地面が噴火した。衝撃波だけで騎士が馬ごと吹き飛ばされ、砂塵が視界を奪う。
「な、なんだ!? どこから攻撃が……!?」
「第二フェーズ。機動力による各個撃破」
砂塵の中から現れたのは、ヨハンが心血を注いだ「自動二輪装甲車(軍用バイク)」の編隊だった。馬など比較にならない速度で縦横無尽に走り回り、サイドカーに据え付けられた機関銃が、騎士の盾を紙細工のように貫いていく。
「……馬鹿な! 剣が届かない! 盾が役に立たないだと!?」
エドワードは絶叫した。彼が一生をかけて磨いてきた剣技も、命をかけて守ってきた騎士道も、リヒトの用意した「工業製品」の前では、単なる非効率なガラクタに成り下がっていた。
【終局:絶望のプレゼンテーション】
演習終了後。
ただの一人もリヒトの陣地に辿り着くことなく、バレンシア騎士団は「全滅判定」を受けた。
呆然と膝をつくエドワードの前に、八歳のリヒトがゆっくりと歩み寄る。
「……これが、君たちの信じる誇りの正体です、バレンシア卿。量産された弾丸一発が、君が十年かけて磨いた剣技を無効化した。……これは戦いではありません。アステリアという巨大企業による、君たちの『価値観』の廃棄処分です」
リヒトの背後では、ヨハンやニーナ(十一歳)といった子供たちが、平然と機材のメンテナンスやデータ回収を行っている。彼らにとって、この惨劇は「予定通りの実験結果」でしかなかった。
「……殺せ。こんな屈辱に耐えて生きるなど……」
「殺しませんよ。……君にはこれから、私の『部下』になってもらいます。……この圧倒的な暴力を運用する側の人間として、再教育が必要だ」
リヒトは、エドワードが落とした剣を無造作に踏みつけ、観覧席に座るエリザベートとセシリアの方へ向き直った。
「……さて、殿下。そしてセシリア。これで王国軍の『組織改編』の障害は消えました。明日からは、アステリア規格の軍事教育を王国全土に配信しましょう」
セシリア(十三歳)は、リヒトの冷徹な采配をうっとりと見つめながら、手元のタブレット(初期型携帯端末)に決済情報を入力した。
「ええ、リヒト。教国の資金を全額、この『新型兵器』の量産ラインに投入するわ。……最高の投資になりそうね」
(……エリートリーマンの鉄則だ。競合を叩き潰した後は、その資産を吸収し、自社のインフラに取り込む。……これで、学園も、王国軍も、私の掌の上だ)
初夏の風が、硝煙の匂いと共にリヒトの髪を揺らした。
騎士の時代は終わり、これからは「内燃機関」と「情報」が支配する、冷徹なアステリアの夏が幕を開ける。
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