第24話 神殺しの飽和攻撃
本日3話目
アステリア侯爵領、北東部の不毛地帯。かつて荒野だったその場所は今、リヒトの設計した「殺戮のコンビナート」へと変貌していた。
「……来たか。迎撃用意。コンプライアンスの最終確認だ」
八歳のリヒトは、地下要塞のモニター室で、初期型半導体を組み込んだ監視カメラのノイズ混じりの映像を見つめていた。
映像の先、月明かりの下を、時速百キロメートルを超える異常な速度で疾走する影がある。イゾルデだ。彼女は警備の装甲車を紙細工のように引き裂き、一直線にリヒトの首(CEO)を狙って突き進んでくる。
(……個の武力がどれほど高まろうとも、物理的な『飽和』の前には無力であることを教えてやる)
「ハンス、第一段階始動。……空を支配しろ」
リヒトの合図とともに、滑走路から「それ」が飛び立った。
内燃機関を限界まで軽量化し、木材と布、そして鋼鉄のワイヤーで組み上げた初期型複葉機――アステリア式攻撃機『ファルコン―01』。
「爆撃開始ッ!」
上空から降り注ぐのは、火炎瓶ではない。ニーナが精製した高性能爆薬を充填した「五百ポンド爆弾」の雨だ。
大地が震え、爆炎が夜空を焦がす。イゾルデの驚異的な反射神経をもってしても、半径数十メートルを更地にする爆発の衝撃波からは逃げ切れない。
だが、爆炎の中から、ボロボロになりながらも立ち上がる白銀の影があった。服は焼け、肌からは血が流れているが、その瞳には依然として凍てつくような殺意が宿っている。
(……まだ動くか。バグめ。……だが、私の計算はここからが本番だ)
「第二段階。……化学による処断」
イゾルデが潜むクレーターを中心に、周囲に配置された特殊ノズルが一斉に開放された。
噴出されたのは、無色透明の死。
リヒトが前世の知識を呪いながらも再現した、神経系を直接破壊する「毒ガス」の霧だ。
「……ッ、ガ、は……!?」
初めて、イゾルデの無機質な顔が苦悶に歪んだ。
剣も魔法も通じぬ「氷の聖女」も、細胞レベルで呼吸を阻害する化学兵器の前には、ただの有機物の塊に過ぎない。
「……ど、こ……リヒト……貴様、は……」
「ここだ。水平線の彼方を見ろ」
リヒトが指し示した先。アステリア湾の沖合に、巨大な鋼鉄の城が浮かんでいた。
超広軌鉄道で運ばれた巨大砲塔を三基備えた、世界初の全鋼鉄製戦艦『リバイアサン』。
「……これが私の回答だ。一対一の決闘などという非効率な真似はしない。……全艦、主砲斉射。……目標、座標零地点。……塵一つ残すな」
轟音。
十六インチ砲が吐き出す火炎が夜を昼に変えた。
数キロメートル先から放たれた数トンの鋼鉄が、イゾルデの存在する空間そのものを「消滅」させた。
爆煙が晴れた後には、生命の気配すら残っていない、ただの焦土だけが広がっていた。
「……チェックメイトだ。不採算部門の切り捨て(リストラ)完了だな」
リヒトはモニターを消し、深く椅子に背を預けた。
これで、秘密結社「蛇」の最大の武力は失われた。帝国はインフラを握られ、教国は金で縛られている。
アステリア侯爵家は、名実ともに世界の支配者へと登り詰めた。
「若君……。いえ、リヒト様。……恐ろしいお方だ」
傍らに立つバドが、震える手で敬礼する。
「恐怖は統治のコストを下げる。……だが、これでようやく『次のフェーズ』に移れる」
リヒトは机の上に置かれた一通の書類を手に取った。
そこには、王立学園への入学許可証が置かれていた。
「政治も経済も、私の代で完成させては意味がない。……次世代のリーダーたちを、私の『合理性』で洗脳(教育)する。……王都の学園を、アステリアのブランチオフィス(支社)に変えてやる」
傍らに立つセシリア(十三歳)が、リヒトの肩に手を置いた。
「ふふ、学園編ね。……私もOBとして、あなたの後ろ盾になってあげるわ。……リヒト、覚悟しなさい? あそこは戦場以上に、ドロドロとした『非合理』が渦巻いているんだから」
エリザベート(十一歳)も、不敵に微笑む。
「私の婚約者として、学園の権力構造を丸ごと買い取ってもらうわよ、リヒト」
八歳になったばかりのリヒト・フォン・アステリア。 婚約した覚えは無いが、できる男は沈黙を選ぶ。
中世の常識を蹂躙し、物理法則すら書き換えた神童の物語は、ここから「世界を管理する」という次なる次元へと加速していく。
第一章・完:『幼年期編』
(……さて。学園の経営資源はどうなっているかな?)
リヒトは眼鏡(ルナが作った初期型レンズ)を指で上げ、不敵な笑みを浮かべた。
第ニ章・学園編へ続く
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