第16話 英知の産声と鋼の教育
本日3話目
四月。アステリア領に建設された白亜の学舎「アステリア高等専門学校」の開校式。
七歳になった私は、壇上から数千人の新入生を見下ろしていた。
「……本日、この学び舎で教えるのは神の奇跡ではない。この世界を数値化し、再構成するための『物理的な真理』だ」
私の左右には、王家の代理として出席した十歳の王女エリザベート、そして領地の次世代を担うカイルたちが並んでいる。
「身分や年齢という非合理は、門の外に捨ててこい。ここでは『結果』だけが君たちの価値だ」
式典の裏側で、私は無線機を通じてマルクに指示を飛ばしていた。
「……マルク、招待客の中に『不純物』が混じっている。光学センサーの反応があった。光学ガラスと反射鏡を組み合わせた監視システムからは、誰も逃げられんよ」
式典後の談話室。エリザベートは扇子を優雅に弄びながら、私に視線を投げた。
「リヒト、相変わらず恐ろしい子ね。帝国からの留学生を受け入れるなんて。……彼らの中には、明らかに軍の息がかかった『工作員』が混じっているわよ?」
「殿下。技術は隠すよりも、不完全な形で公開し、依存させる方が統治しやすいのです。……それに、帝国の背後にいる『蛇』を炙り出すには、最高の餌でしょう?」
エリザベートは楽しそうに目を細めた。
「ふふ、セシリアが戻ってくるまで退屈しないわね。……あの子、隣国でもう十二歳になったんでしょう? そろそろ大人の女性としての嗜みを身につけて、あなたを驚かせようとしているかもしれないわよ」
セシリア・フォン・メルクリウス、十二歳。
彼女からは定期的に暗号文が届く。教国の物流網を、アステリア基準の「複式簿記」と「信用手形」で完全に汚染……いや、支配しつつあるという。
彼女はリヒトより五歳年上の、もはや立派な若き実業家だ。
その夜、学校の寄宿舎。
帝国の留学生を装った男が、極秘資料室の鍵を焼き切ろうとしていた。
だが、彼が扉に触れた瞬間、青白い火花が散り、男は崩れ落ちた。
「……『スタン・トラップ』の威力は十分だな。コンデンサの蓄電能力も合格だ」
暗闇から姿を現したのは、迷彩服を纏ったリヒトだった。
男の襟元を剥ぐと、そこには絡み合う蛇の刺青がある。
「……やはり、バルトロメウスを操っていた連中か。帝国すらも、君たちの道具に過ぎないというわけか」
私は男の意識を奪ったまま、地下の尋問室へ運ばせた。
「カイル。明日からの授業内容を変更する。第一講義は『情報防衛と防諜実務』だ。……教材なら、ここに用意した」
七歳の少年の冷徹な声が、夜の学舎に響く。
世界を理で支配しようとするリヒトと、闇から世界を操ろうとする秘密結社。
四月の爽やかな風の裏側で、ついに「音のない戦争」の火蓋が切って落とされた。
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