第14話:断罪の晩餐と雷光のギフト
年末、王宮の大広間。
シャンデリアの光が降り注ぐ中、各国の使節や王侯貴族が集う晩餐会は、一瞬にして凍りついた。
「……バルトロメウス卿。この帳簿の不一致、およびルガード子爵への武器横流しの証拠について、説明していただけますか?」
七歳のリヒトが突きつけたのは、単なる疑惑ではなく、アステリア諜報網が一年かけて積み上げた「逃げ場のない真実」だった。
「な、何を……! この小僧、出鱈目を! 衛兵、この無礼な幼児を連れ出せ!」
バルトロメウスは顔を真っ赤にし、泡を飛ばして叫んだ。しかし、衛兵は動かない。背後には国王、そして王女エリザベートが冷徹な視線を送っている。
「閣下、見苦しいですよ。あなたが王家から横領した資金は、現在、我が百貨院のダミー口座を通じて全て凍結されています。……あなたが今着ているその上等な服すら、法的には差し押さえの対象です」
リヒトの淡々とした追及に、バルトロメウスは膝をつき、最後には床を掻きむしりながら「私は王国の為に……!」と見苦しい叫びを上げた。かつての権威は霧散し、諸国の使節の前で「強欲な老害」としての醜態を晒し尽くした瞬間だった。
会場が重苦しい沈黙に包まれる中、リヒトはグラスを掲げ、声を張り上げた。
「さて。不浄な膿は出しました。新年を祝うにあたり、アステリア伯爵家より皆様へギフトがございます」
リヒトが合図を送ると、会場の四隅に設置されたガラス球が、青白い光を放ち始めた。
「これは『電気』という新たな力です。……我が家はこの『水力発電』の基本技術を、国内外問わず無償で提供することを宣言します」
どよめきが、先ほどの断罪を上回る衝撃となって広がった。 「独占」ではなく「無償提供」。これにより、各国はアステリア家への技術依存を強めると同時に、リヒトが次に売り出す「電化製品」の市場が世界規模で強制的に形成されることになる。リヒトにとって、技術の無償提供は最大の「先行投資」だった。
一月。新年の喧騒を王都に残し、リヒトはアステリア領へと帰還した。
領内の会議室では、カイル、ニーナ、そしてマルクを交えた収支報告と次年度計画の協議が行われていた。
「昨年度の純利益は過去最高。しかし、物流網の飽和が課題だ。春に開校する『アステリア高等専門学校』の一期生には、交通管理と機械工学を叩き込む」
「リヒト様、見てください! 電動式旋盤の実用化に成功しました!」
子供たちが主体となって開発した新型旋盤は、これまでの足踏み式とは比較にならない精度と速度で部品を削り出していた。
この旋盤により、ガレオン船の主要パーツや、より精密な「銃身」の量産が加速する。
さらに、都市計画に基づいた区画整理も進んでいた。
「植林は百年後の資産だ。港の整備は五十年後の血脈だ。……今の利益に固執せず、構造的な優位を固定しろ」
リヒトの指示を受け、領地は中世の面影を完全に脱ぎ捨てようとしていた。
だが、平和な開発の時間は、不気味な報告によって破られた。
「……若君。北の国境付近で、見慣れない紋章を掲げた小隊が目撃されました」
マルクが差し出したスケッチには、絡み合う蛇の紋章が描かれていた。
「……バルトロメウスを操っていた背後の勢力か。あるいは、我が家の『火薬』と『電気』を狙う、海の向こうの帝国か」
リヒトは窓の外、完成間近のガレオン船を見つめた。
国内の膿を出した直後、今度は「世界」という非合理な荒波が、アステリア領へと押し寄せようとしていた。
「……いいだろう。春の開校式までに、掃除を済ませておくか」
七歳のリヒトは、新型の万年筆をデスクに置き、次なる迎撃計画の策定に入った。
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