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『没落寸前の貴族に転生してしまった』〜現代知識という名の魔法で、中世を20世紀へ塗り替える合理的再興録〜  作者: tky
第1章 幼年期

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第1話 5歳児の命令

「……結論から言おう。君の解雇は、社内リソースの最適化において不可欠なプロセスだ。感情論で私の時間を奪わないでくれたまえ」


それが、前世での私の最後の言葉だった……。



私は日本の大手商社で、不採算部門を冷徹に切り捨てる『氷の交渉人』として恐れられていた。二十代で役員候補に登り詰め、人生という名の経営計画は完璧に進行していた。


しかし、過労という名の「管理不足」により、私の心臓は突然シャットダウンを選んだ。

皮肉なものだ。他人の人生をリストラしてきた私が、最後に自分自身の生命をリストラされるとは。




「……あ、坊ちゃん! 起きましたか!?」


叫び声が聞こえる。

意識が鮮明になると、そこは古びた石造りの部屋だった。私の目の前には、五歳児の小さな手がある。そして、その手を握りしめているのは、心配そうに顔を覗き込ませる乳母のメアリだった。


リヒト・フォン・アステリア、五歳。

魔法などという非科学的な概念が存在しない、中世並みの文明レベルを持つ異世界の貴族。それが今の私だ。


「メアリ。……泣き喚くのはやめろ。騒音は思考の邪魔だ」


「えっ? 坊ちゃん……?」


私はゆっくりとベッドから降り、壁に掛かっていた鏡を見た。

天使のような容姿をした幼児がそこにいたが、瞳の奥に宿る冷徹な光は、五歳児のそれではない。


「状況を確認する。ハンスを呼べ。それから、父上の直近の支出明細をすべて持ってこい」


「ハンス様を……? 坊ちゃん、何を言って……」


「聞こえなかったのか? 猶予は五分だ。それを過ぎれば、お前の来月の給与査定に響くと思え。……ああ、いや、今の家計状況なら給与が出ているだけでも奇跡か。急げ」


私の有無を言わせぬ口調に、メアリは返事もできずに部屋を飛び出していった。


数分後。

執事のハンスが、困惑した表情で現れた。彼はまだ四十代だが、心労のせいか眉間のシワが深い。


「リヒト様、熱でもあるのですか? 支出明細など、子供が気にするようなものでは……」


「ハンス。挨拶は省く。この領地の財政状況をランク付けするなら、三流以下の『倒産寸前』だ。違うか?」


ハンスが息を呑んだ。

私は彼の手から帳簿をひったくるように奪い、目を通す。一分もあれば、この領地の「癌」がどこにあるかは明白だった。


「ひどいな。無計画な宴会費用、効果の不明な祭事への寄付、そしてこの『隣領から買い入れている高価な塩』。……ハンス、我が領には放棄された塩田があったはずだ。なぜあれを使わない?」


「それは……昔から、塩は隣領から買うのが慣例でして……」


「慣例だと? そんなものは思考停止の別名だ。私は、この領地の『経営』を立て直すことに決めた」


私はハンスを見上げ、明確な指示を出した。


「まず、父上から領主印を一時的に……いや、恒久的に没収する。彼は詩作に没頭していればいい。酒の管理権も私が持つ」


「な、何を馬鹿なことを! 閣下が許すはずがありません!」


「許可は事後でいい。バドを呼べ。あの大男には、父上の護衛という名目で『軟禁』を命じる。それから、スラムにいる失業者たちを招集しろ。彼らに放棄された塩田を再整備させる。給与は出来高払いだ」


「五歳のお子様が何を言っているかわかっているのですか!」


「わかっている。だから言っているんだ。ハンス、お前は現状維持で領民が飢えていくのを見ているだけで良いのか?…まぁ私の命令で父上に逆らう事が難しいのは道理だ。では命令を変更しよう。」


私は、机の上にある羽ペンを手に取り、真っ白な紙に「アステリア領・再生計画書」と書き殴った。


「まずは『自給自足の確立』。次に『特産品の加工による高付加価値化』。まだまだこれだけでは足りない、やることは山積みだ。ハンス、お前の返事は?」


ハンスは呆然と立ち尽くしていたが、やがて、覚悟を決めたように深く頭を下げた。


「……リヒト様。その計画、不肖ハンス、お供いたしましょう」


「分かってくれて良かったよ。まずは塩田の視察からだ」


こうして、五歳の小さな一歩から始まった。

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