危険な魔法少女との邂逅
コンビニの看板の明りに照らされたななみは、いつもより大人っぽく、妖艶な雰囲気を纏っていた。制服姿なところを見ると、学校からの帰りなのだろう。進学先が違うとはいえ、もともと同じ小学校に通っていたので、住んでいる場所は比較的近い。しかし、こうして街中でばったりと会ったのは初めてだった。
「文化祭の日以来やなあ。いうてもそんなに経ってへんか。梓さんは今帰りなん?」
「うん、ちょっとコンビニに寄ってたとこ」
私が提げているコンビニの袋に視線を落として、「なに買ったん、見せてや」と覗き込んでくる。
「コーラとカップラーメン?あかんよ、こんな体に悪そうなもんばっかり。コーラって角砂糖15個分くらいあるらしいで。麦茶にしとき、麦茶」
ななみは面倒見がいいというか、口うるさい母親のようになっている。関西の女は最終的にほぼ全員が、ポケットに飴を忍ばせている典型的なおばちゃんになると聞いたことがある。今はこんなに可憐な少女であるななみも、いつかはトラ柄の服を着て、飴を常備するようになるのだろうか。
「梓さんの学校で買い食い禁止とちゃうの?ウチの学校はそうやけど」
「一応ルールでは禁止されてる。まあみんなやってるし、先生に見られてるわけでもなから、いいかなって」
「ふうん。なんにしてもカップラーメンも食べへんほうがええよ。すぐ太るし塩分すごいし。あっ、絶対汁飲んだらあかんで。固めて捨てや」
「分かってるって!」
わかってない。汁を固めるとは一体どういうことだ。そんな生活の知恵など、私にはない。
「ほな、また」とコンビニへ向かっていくななみ。彼女もコンビニで買い物だろうか。
瞬間、強烈な光が瞬いた。コンビニの照明が爆発でもしたのかと思ったが、目を開けて確認しても、コンビニには傷一つついていない。ならば、今の閃光は一体?
喫煙スペースからクロエルの姿が消えている。いや、消えたのではない。クロエルは吹き飛ばされたのだ。コンビニ前のガードレールに背中を打ち付け、衝撃で血反吐を吐いていた。
「えっ、ちょっと、クロエルさん⁉誰にやられたんですか!」
口元を拭いながら立ち上がったクロエルは、憎悪のこもった目でコンビニの方向を睨んだ。
「さっきまで梓ちゃんが仲良く喋ってた、あの子よ」
魔法少女姿のななみが、ステッキをバトントワリングのようにくるくると回していた。よくもあんな短いステッキを、器用に回したりできるものだ。そういえば小学校時代、ななみは授業中によくペン回しをしていた気がする。
「あれ、梓ちゃんの友達よね。前に商店街での戦いの時も助太刀に来た子。相当危険だわ。こんな人目のある場所でいきなり襲ってくるのもやばいけど、単純に強い。この私が攻撃を避けられなかったんだもん」
ななみはクロエルの腹部を狙い、魔法を放ったらしい。クロエルもさすがの反応速度で、なんとか手で防御して致命傷を免れていたが、それでもダメージは大きい。ビールで酔っていた状態でここまで反応できたのだから、まあ上出来ではあるのだが。
「お初にお目にかかります、って言うたほうがええんかな?こうやってちゃんと対面するのは初めてやし、改めて自己紹介させてもらいます。橘ななみ、ソルガムナイツで魔法少女やらせてもらってます。梓さんから名前は聞いてます。クロエルさんて、呼ばせてもらってええかな?」
ななみはぺこりと頭を下げたが、視線だけはクロエルを鋭く見据えている。
「なんでソルガムナイツに女の子がいるのよ」
「それは色々事情があんねん。ウチかて最初は不本意やったけど、続けてみようていう気になったんは、あなたの姿を見たからなんよ。クロエルさん」
ステッキを指で撫でながら、舌なめずりをするななみ。まずい。性癖が暴走モードに入っている。
「この子何言ってんの。梓ちゃん、友達選びはもっと慎重にしたほうがいいわよ」
「それより逃げましょう、危険です!」
「口出しは無用やで。梓さんには手出しせえへんって言うたけど、ウチはソルガムナイツの一員や。ノクターンロゼを討伐するっていう使命はある」
ななみはクロエルにステッキを突きつけた。
「ウチと勝負しようや。中学生からの果たし状、大人やったら受け取ってくれるやろ?かわいい遊びみたいなもんやんか」
ななみの瞳に怪しい影が差している。エロ漫画を読んでいるときのあの表情だ。
「舐められたもんね。いいわ、その勝負受けて立つ」
クロエルの毛が逆立った。背中から翼が生え出てきて、臨戦態勢となる。こうなったらもう止められない。
ななみはクロエルを一目見たときから、ずっと性的な目で見ていた。悪の女幹部を完膚なきまでに痛めつけ、屈服させる。その欲望を今まさに果たそうと、ななみは企んでいるのだった。




