当然の成り行き
考えてみれば単純な話である。人間のあらゆる器官は、脳の動きに直結している。興奮すると瞳孔は開くし、心臓の脈動も早くなる。性的興奮を覚えれば、意思とは関係なく反応する部分は、男女ともに備わっている。
私の場合は、それが一つ多いというだけだ。
脳みそが沸騰するような熱い興奮を伴う刺激がなければ、私から触手が飛び出すことは滅多にない。これまでだって、真堂と直接対決をした時しか触手は発現しなかった。たまに趣味の漫画を読んでいるときに、ページをめくる手がいやに湿っていると思えば、割れた指先から触手が頭だけ出していることはあるのだが、あの光景は実に気持ちが悪い。
体育倉庫に閉じ込められ、朝まで助けは来ない可能性の高いという状況。真堂が変身できればいいのだが、変身アイテムを置いてきたせいで彼の力は頼れない。閉ざされた体育倉庫の扉を開けることができるのは、考えうる限り私の触手だけだ。
問題は、どうやって興奮するかである。手元にはエロ漫画も無ければ、スマホもない。せめてスマホがあれば。とても人様には見せられない秘蔵フォルダの中から、保存しておいたお気に入りの画像を拝んで、触手を出すことが出来たかもしれないのに。
うんうんと唸りながら脱出方法を考えていると、真堂の不機嫌そうな声が暗闇から聞こえてきた。
「なに、さっきから一人でぶつぶつ言ってるけど。それより扉を開ける方法は思いついた?」
「方法はあるにはあるけど、それには必要な条件があって」
私は真堂に、触手の発動条件を説明した。聞き終えた彼のリアクションは薄かったが、きっと見えないだけで、さぞかし私を軽蔑した表情をしていることだろう。
「はあ、それなら朝まで待つしかないか。化け物と二人で閉じ込めたられるなんて、ほんと最悪だよ」
「私だって嫌だよ!ここは寒いし、最近の朝の最低気温なんて5度とかでしょ。助けが来るまで耐えられないって」
「そう言ってもお前は触手を出せないわけだし、脱出方法がないだろ」
「ないとは言ってないよ」
私は立ち上がり、真堂の声のするほうへと近づいた。向こうから私の姿は見えていないし、こちらからも見えない。だが声と気配で大体の居場所は分かる。
真堂も私が級に接近してきた気配を感じたのだろう。距離を取ろうと後ずさる音がした。しかし真堂の背後にあったのは、倉庫の冷たい壁。逃げ場はない。
私は両手を広げて、だいたいこのあたりに真堂がいるであろうという場所に覆いかぶさった。
「な、なにしてるんだ、どけよ!」
大当たりだ。暗闇の中で、私は真堂の体にまたがる様な体勢になっている。
手探りで左手を床に這わせると、ロープのようなものが指に触れた。よし、これでいい。
興奮しなくても簡単な念動力くらいは使える。ロープか縄跳びか分からないが、固い紐状の物体に向かって念じる。真堂の両手を拘束せよ、と。
シュルシュルとロープが床を伝いながら伸びていく。視界がほぼ真っ暗な状態でうまくいくか不安だったが、念動力は成功したらしい。真堂が私の体の下で、両手を拘束されてもがくのが伝わってくる。
「悪く思わないでね、真堂君。これも私たちがここを脱出するために必要なことなの」
「僕を拘束してどうするつもりだ…!」
「言ったでしょ。私の能力は性的興奮を覚えないと発動しないんだって。だからこれは、そのための準備。私がエロい気分になるために、真堂君には犠牲になってもらうから」
男女二人が夜の体育倉庫で二人きり。たとえ正体が化け物とヒーローであったとしても、そういう展開が起きることは必至。いや、必須である。
私は動けなくなった真堂の首筋に手を這わせ、制服のボタンの一つ外した。学校の規定で、男子のポロシャツは一番上のボタン以外は外してはいけないと決められている。教師に歯向かうことで自我を保っている一部の生徒はボタンを3つくらい外しているが、真堂はいつも規定通りの服装をしていた。そんな真堂のボタンを自分の手で外していくのは、妙な背徳感がある。
「ほんとになにしてるんだよ、離せっ」
真堂の抵抗も空しく、制服のボタンはすべて外された。中に着ているのは、ヒートテックだろうか。なんとなく繊維の手触りから、保温性の高い肌着を身に着けていると分かる。
真堂の体温を閉じ込めたその肌着をめくり、中に手を入れる。冷えた私の手に直接腹部を触られ、その冷たさに思わず真堂の体はびくりと跳ねた。
生まれて初めて触れる、男子の肌。もっと脂っぽかったり、ごつごつした手触りかと思っていたが、真堂の肌は見た目通りかそれ以上に繊細で、滑らかだった。無駄な毛も一切生えていないらしい。
私の指は、へそから脇腹へ、そして脇へとなぞりながら上に上がっていく。真堂が身をよじって逃れようとするが、両手を拘束されているうえに、私に上から体重をかけられているので、抵抗が出来ない。
肌着を首元までまくり上げ、露になった真堂の胸に触れる。男の乳首など存在意義はないと言う人もいるが、私はそうは思わない。確かに女のそれと違って、子育てには何の役にも立ちはしないが、たとえそれが性感帯ではないにしても、そこにあることにこそ意義があるのだと思う。こと今のような状況においては、真堂に辱めを与える意味でも乳首の存在は必要だ。
現実はエロ漫画のようにはいかない。いくら淫靡な動きで刺激したところで、真堂が女の子のように喘ぎながら身をよじるということはないのだが、分かっていても触らずにはいられない。
たっぷり時間をかけて上半身を堪能したあと、私の手は真堂のズボンのベルトへ伸びた。金具を外し、ジッパーを下ろそうとした。まさに興奮が最高潮に達そうという瞬間。
倉庫の扉が開いた。スマホのライトが私たちを照らす。




