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お決まりのシチュエーション

 学校とは、往々にして青春イベントが発生しやすい場所である。思春期真っ盛りの男女が、学校という狭い空間に雑多に放り込まれているのだから、当然といえば当然。むしろ何のイベントも経験せずに3年間を終えるほうが珍しいと言えるだろう。何も恋愛に発展することでなくても、少しドキドキする程度のものでもいい。私だって中学のうちに、一つくらいは経験しておきたい、と思っていた。

 

 しかしこんな形で訪れるとは。

 

 私が置かれている状況はというと、場所は体育倉庫で時間は夕刻。部活動の生徒も大方が下校したあとだ。

 

 埃っぽい倉庫の中には照明がない。格子窓から差し込む夕日の光も徐々に薄くなり、まもなく太陽は完全に沈もうとしている。

 

 倉庫の鍵は閉められている。閉じ込められたのだ。別に誰かが意図的にやったわけではなく、鍵を持つ教師が中に人がいるのを確認せずに閉めてしまい、結果的に幽閉されることとなった、お決まりのパターンである。

 

 放課後の体育倉庫に閉じ込められるというシチュエーションは、これまで恋愛漫画や成人漫画で幾度となく見てきた。この状況において一人で閉じ込められるという事は、漫画の場合、まず展開的にあり得ない。男女が二人きりで狭い空間に押し込められる。それが定番というものだ。

 

 創作の世界のお決まりなど現実で起きるはずないと思っていたが、案外そうでもなかった。私は今、真堂と二人きりで体育倉庫にいる。

 

 悪の組織や魔法少女、ヒーローなど、非現実的なものをこの半年で経験してきた私は、現実が非現実を超えてくる事には慣れていたつもりだったが、こんなド定番のシチュエーションに自分が置かれるとは、さすがに予想外だった。

 

 「最悪だよ、もう」

 

 日が沈むスピードは早い。先ほどまでは見えていた真堂の顔も、すっかり暗闇に覆われてしまった。真堂のつぶやきだけが聞こえてくる。

 

 「なんでこんな事になっちゃったんだろう」

 

 「お前のせいじゃないの?」

 

 商店街での戦闘以来、真堂は私を人間として扱わなくなっていた。名前で呼んでくれず、お前とか、そういう乱暴な言い方でしか呼ぶことはなくなった。私も真堂に好意を寄せていたのは過去の話で、今は敵同士だと認識しているので、ぞんざいな扱いを受けること自体は構わないのだが、状況が状況なので今くらいは優しくしてほしい。

 

 「悪いのは私じゃないでしょ。そもそも掃除当番じゃなかったのに、急に当番の子に代わってくれって頼まれて、仕方なく倉庫の片付けをしてただけ」

 

 「僕だって同じで、当番を代わって掃除してたんだよ。鍵は先生が持ってるから、掃除が終わったら当番が先生に報告して施錠するって流れのはずだけど」

 

 「きっと当番が適当に言ったんだよ。まだ私たちが掃除してるのに、もう終わりましたとか、先生に報告したんじゃない?」

 

 「それで先生もろくに確認もせずに、鍵を閉めたってことか」

 

 「私たちはどっちも悪くないし、完全な被害者だよ」

 

 二人の間に沈黙が落ちた。互いを責めようにも責めにくい。

 

 車のエンジンがかかり、学校の駐車場から遠ざかっていく音が聞こえた。先ほどから助けを求めて、扉を叩いたり窓から叫んだりしてみたが、校内に残っている人はほとんどおらず、いたとしても私たちに気づかずに帰ってしまう。倉庫で一晩過ごす羽目になるかもしれないと思うと、心臓に悪いほうのドキドキを感じる。

 

 ともかく状況を打破しなくては。

 

 「真堂君の力で扉を蹴破るとか出来ないの?」

 

 「ヒーローになるには変身アイテムが必要なんだよ。僕の場合は腕時計なんだけど、教室に置いたまま」

 

 「なんで置いてきちゃうの⁉」 

 

 「掃除なんてすぐに終わると思ったし、代わってくれてって頼まれたのも急だったから、つい。それよりお前の力のほうで何とかならないの?」

 

 「なる、かもしれないけど…」

 

 私はクロエルのように、自在に能力を操れるレベルにまでは達していない。簡単な念動力くらいなら発動できるだろうが、固く閉ざされた体育倉庫の扉を動かすには、あまりに力が足りない。

 

 真堂との戦闘の時のように、触手などの強力なパワーを引き出すには条件がある。自分でも最近気づいたことなのだが、私の能力はずばり、性的興奮の度合と連動しているらしい。

  


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