給餌の時間
心臓という言葉が意味するものが何か、私は嫌でも理解せざるを得なかった。だって、見てしまったのだ。下半身にチューブを繋がれた少年の虚ろな瞳。その視線の先を辿っていくと、確かにそこにあった。どくどくと脈打つ、むき出しの心臓が。
軽トラくらいの大きさのそれには、無数のチューブが繋がっていた。少年から伸びているのは一本だけ。すると他にも、培養液のようなものに満たされた人間がいるのだろうか。
果たして私の予想は的中した。
英雄の心臓と呼ばれるこの部屋に並んだカプセルは一つではない。2つ、3つ…、数えだしたらキリがない。その数はゆうに100は超えているだろう。全てのカプセルから細いチューブが、台の上に置かれた心臓に向かって伸びている。
一番デリケートそうな部位なのに、こんなむき出しでいいのだろうか。心臓こそカプセルに保管しておくべきなのに。
整然と並べられたカプセルの間を練り歩く。中身が空のものは一つもなく、全てのカプセルには人が閉じ込められている。それも全員が少年。最初に見た子と同じく、衣服の類は一切身に着けていない。身に着けていないというと自分の意思で脱いだみたいだが、おそらくというかほぼ確実に、ノクターンロゼによってはぎ取られたのだろう。
「綺麗…」
思わずそんな声が漏れた。培養液に浸った人間を前にしていう言葉がこれでは、まずまともな感性でないことは確かだ。中学に上がってから親に心配されることも増えており、そろそろ自分の変態性が周囲に隠しきれなくなっているのを自覚していた。
しかし何も私の感性がひどく変わっているわけではない。綺麗と言ったのには理由がある。
カプセルに閉じ込められている少年たちは、年のころはおよそ小学校高学年から中学生といったところ。全員に共通するのは、局部にチューブが繋がっていることだけではない。
みんな揃いもそろって顔が整っているのだ。
ジャンルは違えど、中性的な美少年系から、サッカー男子のような爽やか系。真面目な委員長タイプもいる。
普通の人間にとってはショッキングだろうが、私にとっては実に眼福な光景であって、感動こそすれショックを受けることはなかった。
「どーですか、梓さん!活きのいいエサたちでしょ?」
アルシアがまた口にした、「エサ」という言葉が気にかかる。
「エサって、それどういう意味なんですか」
「どういうって…。あー、そのままの意味ですよ。この子たちはノクターンロゼが捉えた少年ヒーローたちで、そこの台にある心臓。それにエネルギーを送るための、まあ言うなれば栄養みたいなもんですかね」
「まさかエネルギーを抽出してるのって、あのチューブなんですか」
「そうそう、そうです!あのほっそい管から、チューチューと吸い出してるわけですよ」
「一応聞きますけど、吸い出してるのはヒーローのエネルギーなんですよね?」
「それ以外になにを吸うんですか?」
「繋がれてる位置が位置なもんで」
「あっはは!」アルシアが笑うと、また声量が格段に上がった。カプセルはよほど強固なガラス製らしいが、そうでなければ音波で割れていそうだ。
「そーいうやらしいことばっかり考えちゃって。クロエルさんがスカウトするだけありますねえ!」
「ね、素質あるでしょ。この子」
ブーンという重低音が耳のすぐ横で響いた。
私の側にあったカプセルが赤く光り出している。その中では、睫毛の長い綺麗な顔立ちの少年が、眠ったように目を閉じていた。
「そろそろ始まりますよ。エネルギーを吸い出す時間が!」




