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異常な2人

 

 「あんねん、じゃない。人の上司をそんな目で見ないでもらっていい?」

 

 世の中には『女上司モノ』というジャンルがあることは知っている。普段は逆らえない立場の相手を服従させる背徳感が、たまらないのだろう。私の読んでいる漫画では、あいにくそのような場面は登場しないので、ジャンルとして存在するという知識だけだが。

 

 「クロエルさんって言うんや。なあなあ、あの人って普段どんな感じなん?いつもあの恰好なん?それとも戦いのときだけ?」

 

 クロエルのボンテージ以外の恰好といえば、夏休みに海に行ったときに見た水着姿だけだ。どちらも一般的な恰好より露出度が高く、いわゆる私服姿というのは拝んだことがない。もしかしたらボンテージが私服の可能性もある。

 

 クロエルについて根掘り葉掘り聞こうとしてくるななみだが、あいにく私も詳しくは知らないので、適当に答えをはぐらかせて終わった。つまらないというふうに口を尖らせるななみ。半年経っても彼女の性癖は正常化に向かうどころか、むしろ魔法少女としての力を手に入れたおかげで理想のシチュエーションの実現可能性が高まり、性癖がさらに尖っていた。

 

 それは私とて同じことだ。

 

 ノクターンロゼの一員として、指から触手が出たり、念力のような力で周囲のものを自在に操ったりと、少年ヒーローを追い詰めるだけの力を手にしている。

 

 2人の異常性癖持ちの中学生は、非現実的なパワーを身に着けたことで、より一層危険な変態へと進化したわけだ。

 

 質の悪いことにその力は強力で、警察程度では止められない。包囲されて拳銃を向けられたところで、今の私であれば警察を制圧することも容易いだろう。多勢に無勢で相手が5人いたとしても、こっちの触手は10本。むしろ数で劣るのは向こうのほうだ。

 

 化け物と化した私と、魔法少女になったななみは、揃って屋上の欄干にもたれかかった。ななみも変身を解き、制服姿に戻っている。はたから見れば青春の一ページ。恋について語らっている、2人の女子中学生に見えることだろう。

 

 「これからどうなるんだろうね、私たち」

 

 「正義と悪、やもんな」

 

 思春期真っ盛りの2人の悩ましいつぶやきは、秋の風にさらわれて、落ち葉とともに流れていった。 


 

 

 クロエルから呼び出しがかかったのは、その日の夜のことだ。

 

 全校生徒が準備に精を出した文化祭は破壊され、当日の続行は不可能と判断された。焼失した中庭ステージの復元や屋台の再建などを含めて、1か月後に改めて開催するという運びになった。

 

 敵か味方か曖昧なやつの襲来から、友人の魔法少女化など、あまりに情報量の多い一日に、私は心身共に限界を迎えていた。

 

 今日はもう何もしたくない。なんとか晩御飯を胃に詰め込み、風呂も入らずにベッドに倒れこむ。

 

 すぐにまどろみ始め、心地よい眠りの世界へ一歩足を踏み入れようとした時、嫌な音がした。

 

 コンコン、と窓を叩く音。

 

 自室の窓から訪ねてくる相手なんて、クロエルしかいない。

 

 顔を上げなくても訪問者が分かるので、あえて寝ているフリでやり過ごそうとした。寝息に聞こえるように、少し大きな音を立てて深呼吸をする。すうすう、という我ながらクオリティの高い寝息が出た。

 

 全身の力を抜き、四肢を脱力させてベッドに沈み込むイメージで、狸寝入りを決め込む。

 

 コンコン、コンコンとノックが続く。

 

 「開けてよ梓ちゃん。起きてるんでしょ。寝たふりなんてしてもダメ。こら、開けなさい」

 

 借金取りに居留守を使う債務者とはこんな気分なのだろうか。クロエルの声は届かないと自分に言い聞かせて、寝息のリズムを安定させることに集中した。

 


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