第3章 狙われた女幹部
第3章
屋上に吹き付ける風が、落ち葉を空に舞い上がらせた。
それが合図のように、ななみの語る魔法少女誕生までのエピソードが終わった。
「まあざっとこんなもんや。ウチが魔法少女になってしもたのは、自分の欲望に負けたのが原因みたいなもんやし、しょうがないっていう諦めもあるよ。ウチの戦績が真堂君のものとして計上されてるんは納得いかんけどな。さっきの戦いかって、ほぼウチが倒したみたいなもんやろ?」
私はなんと答えるべきか悩んだ。
あまりにも情報が多すぎる。久しぶりにあった友人は魔法少女になっているし、私は私で悪の組織、ノクターンロゼに加入しているので、つまり2人は敵同士ということ。
その事実をななみは知っている。商店街での戦いで、真堂を辱めていたところを助太刀に来たのは、ななみだったのだ。あの時は興奮状態だったため、突如放たれた光の柱が、一体誰による攻撃だったかまで確認していなかった。
クロエルがいつもの余裕を崩し、即刻撤退を決めるほど強力な相手だとは分かっていたが、それがまさか小学校時代の友人だとは。しかもあの変態美少女、橘ななみだとは。
「えっと、まだ理解が追いついてない気もするんだけど。要するに橘さんは、現在魔法少女として活動している、と。そして真堂君と同僚みたいなもので、つまるところ私の敵ってことでいいんだよね?」
「悲しいけどそうなるなあ。梓さんは唯一のほんまもんの友達やと思ってたし、それはこれからも変わらへんよ。けどまあ、立場上は戦わなあかんってことになってる」
「今…ここで?」
商店街一つを壊滅させる威力を持つ魔法を放つステッキを、ななみは握っている。その気になれば学校を焼き払うことだって出来るだろう。魔法少女ってこんなに破壊的なものだっただろうか。
ななみはぶんぶんと首を横に振った。
「まさか!ウチは梓さんをやっつけるつもりなんてあらへんよ。友達やって言うたやん」
学校が消し炭になることは避けられたようで、ひとまず安心だ。新校舎が建ったばかりだったので、もしななみがその気になっていれば、被害の金額も相当なものになっていただろう。
「でも上にはどう報告するの?みすみす私を取り逃がしたとなったら、橘さんの立場も危うくなるんじゃないの」
「そもそも組織としては、ウチはおらんことになってるからね。宮木さんは女の子スカウトしたことを隠蔽してるし、敵を一人取り逃がしたところで何のお咎めもないよ。なんか言われたら、真堂君に押し付けたら済む話やしね。ウチの戦績は全部あの子のものってことになってるから」
なるほど、戦績を奪われるのは悪いことばかりではなく、失敗や過失も押し付けられるというメリットがあるらしい。
ななみは思い出したように「そういえばあの人は?」と言った。
「あの人って?」
「商店街で梓さんを連れて行った、あの綺麗な女の人。ほら、ボンテージ着てたエロい人やん」
「ああ、クロエルさんのことね」
やはりクロエルに抱く第一印象は、ボンテージの人というものらしい。大体どこにいても浮く恰好なので、当然と言えば当然だ。
「梓さんとは戦わへんつもりやけど、あの人は別よ。近いうちにまた会いたいなあ」
「な、なんで?クロエルさんと確執でもあるとか?」
「確執はないけど…」
ななみは小さい舌をぺろりと出して、舌なめずりをした。
「性的な興味はあるねん」




