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事件の後の休日

 触手の襲撃から2日。生徒によってSNSに投稿された映像は瞬く間に拡散し、学校には一昨日からメディアの取材班が押しかけている。しかし触手が出現したときに真っ二つに割られた地面はいつの間にか元通りになっており、なぎ倒された木や、ひしゃげたサッカーゴールくらいしか戦いの痕跡を示すものはなかった。

 

 それよりもSNSのユーザーたちの興味を引いたのは、謎の美少年ヒーローだ。

 

 華奢な体から繰り出される100万馬力の脚力。相手を常に見下すような飄々とした態度。そして体のラインが浮き出た色っぽいヒーロースーツ。

  

 ネットには彼をイラスト化した投稿が溢れ、未成年の目には触れさせられないような過激なものを描く絵師まで登場。実在の人間に対する肖像権もなにもあったものじゃない。私はモラルの無い投稿に怒りを感じて通報ボタンを押しかけたが、あまりに性癖に突き刺さるイラストを見つけてしまい、思わずグッドボタンに指を伸ばした。

 

 「お待たせー!ごめんごめん遅れちゃった。…って、何見てるの?」

 

 駅前で待ち合わせをしていた恵がやってきて、後ろから私のスマホ画面を覗き込んでくる。

 

 「なんでもない!」慌ててスマホを両手で包み込む。

 

 「私の勘違いならごめんだけど…。すごくエッチなイラストが見えたような」

 

 「こんな人通りの多いところで見るわけないでしょ。土曜のお昼、それも駅前だよ!」

 

 「人がいないところでは楽しんでるんだ」

 

 墓穴を掘った私を見る恵の目に、わずかに軽蔑の色が浮かんだ気がした。

 

 「それより遅刻だよ。乗る予定だった電車はもう出ちゃったし、そのあともう一本見送ったんだから」

 

 「ごめんって。ま、ゆっくり行こうよ。時間はたっぷりあるんだし」

 

 私と恵は、ここから10駅ほど離れたところにある遊園地に行く約束をしていた。小学校の時の遠足で行ったきりで、それも低学年のころだ。久しぶりに童心に帰りたいということで、恵の提案で急遽決まったのだ。

 

 土曜日ということもあって、朝から園内は人で溢れている。家族連ればかりかと思っていたが、案外学生カップルや大人だけのグループも多い。

 

 「久しぶりに来たら色々変わってるね。あの木製ジェットコースターなくなっちゃったんだ」

 

 恵は以前にあったアトラクションについて事細かに記憶しているらしいが、私はほとんど覚えてない。

 

 「木製コースターなんてあったっけ」

 

 「えー、あったじゃん。登るときにガタガタ言って怖いやつ。それよりまず何乗る?やっぱコーヒーカップ?」

 

 「酔うし嫌だ」

 

 「じゃああれは?」

 

 恵が指さした先には、見慣れないアトラクションがあった。

 

 「古代エジプトの呪い?こんなのあったっけ」

 

 ピラミッドを模した建物が、メリーゴーランドから少し奥に行った暗がりに佇んでいる。

 

 「これって怖いやつじゃないよね」

 

 「梓ってそういうの苦手だっけ?」

 

 「出来れば遠慮したいんだけど」

 

 「もうさっきからずっとノリ悪い!つべこべ言わず入るよ!」

 

 恵に腕を引っ張られ、私たちは古代エジプトの呪いの館へと足を踏み入れた。  


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