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営業部の内情

 

 怒りに眉を吊り上げた里中の顔からは、もはや女子大生のような雰囲気は消えていた。あまりに綺麗な形だったので、てっきり描いていると思われた眉毛は、どうやら地毛らしい。

 

 ななみはテーブルの下から顔を半分ほど突き出して、説教の様子を観察した。

 

 大人が大人に、しかも年下に怒られている光景は衝撃的だった。ななみの家庭は両親の力関係も対等だったので、母親が父親を尻で敷くことも、父親が亭主関白でふんぞり返るということもなかった。だから大人が大人に高圧的な態度を取り、もう一方が萎縮している姿というのは、ななみにとって新鮮なものだった。

 

 「ノルマ未達が3か月連続してるのは宮木君だけだよ?分かってる?」

 

 里中がテーブルを叩くと、隠れているななみにも衝撃が伝わってきた。上に置かれたコーヒーカップが、カタカタと揺れる音が聞こえる。

 

 「はい、申し訳ございません」

 

 「謝罪はいらないんだよ。私たちの仕事はとにかくヒーローとなる人材を片っ端からスカウトすること。結果的に死んじゃったのはしょうがないよ?戦いってそういうもんなんだからさ。でもそれなら、もっと数を確保すべきじゃないかな。10人ヒーローを集めたって、そのうち素質があって使い物になるのは1割程度。それを分かってるなら、ちまちまスカウトしてないで、もっと数を上げないと。私も上からせっつかれてストレスやばいんだよね」

 

 里中の愚痴はそれから10分に渡って続いた。その中から得た情報としては、ソルガムナイツの営業部は少年ヒーローとなる人材のスカウトを行っており、上から課されているノルマがとにかく厳しい。管理職である里中は、宮木をはじめとする部下たちが成績を上げてこないことに、怒りの限界を迎えている。そしてスカウトしたヒーローのほとんどは、戦いの中で殉職している。ある程度組織への貢献度を上げないままに命を落としたヒーローは、成績に計上されないらしく、宮木が目を付けたヒーローの大半はその例にあたる。というのが、里中の口から出た情報だ。

 

 組織内における宮木の立場は悪く、これ以上成績の低迷が続くのであれば、左遷もあり得ると言う。

 

 「真堂君には期待してるよ。キミはなんというか、すぐに死ぬことはなさそうだ。だけどいいかな?死なないことがヒーローじゃない。悪を討伐してはじめてヒーローとして認められるんだから、とにかく頑張って成果を上げてね」

 

 宮木に対する棘のある声のトーンから一転、柔和な響きを取り戻した里中だったが、声にはまだ若干ドスが効いたままだ。管理職のストレスがいかに重たいものかは、ななみには計り知れない。だが里中の情緒の振れ幅を見る限り、おおよそ人間が常に曝されていいレベルのストレスではないだろう。

 

 「分かった。方針を変えよう。この際量より質だよ、宮木君。どうせすぐ死ぬヒーローを集めても意味ない。それなら圧倒的な素質を持った子を見つけてきて」

 

 「先ほどは数が足りないと仰っていましたが」

 

 「数も集められないくせに口答えするの?」

 

 「申し訳ございません」

 

 「結局本部が見てるのは、どれくらい敵を倒したかなんだよ。10人集めて1人の敵を倒すよりも、1人のヒーローで10人の敵を倒したほうが効率的でしょ」

 

 「承知いたしました。必ず強いヒーローとなる人材を見つけて参ります」

 

 「いつまでに?」 

 

 「いつまでに…?」

 

 「仕事には期限を設けないと、モチベーションも上がらないでしょ。はい、それいつまでにやるの?」

 

 「今月中には」

 

 「遅い。来週までに一人は確保すること」

 

 それだけ言って里中は去っていった。


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