殉職
殉職。聞きなれない言葉だが、意味はなんとなく知っている。
職務中に何らかの原因で命を落とすことであり、多くの場合は警察官や自衛隊など、常に命の危険と隣り合わせの職業に使われる事が多い。
「ヒーローが殉職って…、信じられへん。それはつまり、戦いの中でみんな死んでいってるってこと?」
「その通りです。もちろん労災は降りませんし、遺族への保障もありません。ソルガムナイツは法人ではありませんので」
「その死んでる人たちって、僕らと同じくらいの年齢の人なの?」
真堂の問いに、宮木は首肯した。
ななみみ真堂も約半年前までは小学生だった。人生まだまだこれからという時に殉職だなんて、考えられることではない。
しかしその運命は、魔法少女になった時点で、自分の身にも降りかかる可能性が高くなっている。
殉職という言葉を口の中で何度も繰り返しつぶやくと、それが妙な現実感を伴ってきた。明日死ぬかもしれない。そんな仕事に、あんな適当な契約で就かされてしまったのだ。
人を地獄のような運命に陥れておいて飄々としている宮木を睨みつけ、コーヒーカップを強く置いた。
「なんでそんな大事なこと、もっと早く言わへんのですか!」
「だって言ったら契約しなかったでしょう?」
「この悪徳セールスマン!」
「クーリングオフは受け付けませんよ。既に期間は終了してますし、元よりそんな制度、ソルガムナイツの契約には適用されていません」
テーブルの下でステッキを握る。今ここで魔法を放ち、その腹立たしい顔に一撃お見舞いしてやりたい。
店内で魔法を使おうものなら器物破損は免れず、最悪の場合はコンビニ事件の時のように店ごと無くなりかねないので、ななみは深呼吸をして怒りを抑えた。アンガーマネジメントには6秒数えるといいと聞いたが、宮木の理不尽に対する怒りは6秒では消えなかった。
残り少なくなったコーヒーを飲み干し、なんとか平静を装う。
「で?これまで何人くらい亡くなったんですか。私らみたいな年端もいかへん子供が」
「正確には覚えていませんが、大体40人くらいでしょうか。ああ、これ昨年度だけの数字ですから、全部合わせると300人は超えてますね」
ホットココアを飲んでいた真堂がむせかえった。死者の数がもはや戦争レベルではないか。しかもほぼ全員が小中学生ときたものだ。日本の少子化の原因は、ソルガムナイツではないのか。
「今って10人しかおらん言うてましたよね。ほなもともとは、少なくとも350人はいたってことなりますけど、計算合ってます?」
「間違いないですね」
「悪の組織ってノクターンロゼやのうて、ソルガムナイツなんと違います?」
「とんでもない。ノクターンロゼこそ社会を脅かす危険な存在。我々は悪を成敗するための組織なんですから」
もう宮木の言うこと全てが怪しく思えてきたが、いちいち突っかかっていてはキリがない。2つ目の質問だ。
「なんでウチらをスカウトしたんですか。他にも素質ありそうな子はいたでしょうに」




