スカウトマンの苦悩
全員が完食するまでの約20分間、大した会話は交わされなかった。初めて魔法少女になった日、強盗をコンビニごと焼きつくしたエピソードを披露するも、真堂の反応は薄い。まるで昨日見た夢の話を聞かされた時のように、興味なさげに相槌を打ってきた。
会話とはキャッチボールだ。こちらがエピソードトークをしたのだから、次はそっちの番だろうと目線で合図するも、真堂は付け合わせのミックスベジタブルをフォークで突いているだけで、何も話してこない。
そうして気まずいランチタイムが終わった。これのどこが親睦会だというのか。
ドリンクバーから食後のコーヒーを取ってきて席に戻ると、真堂はホットココアを飲んでいた。見た目より子供舌なのは可愛げがある。
宮木はというと、優雅にコーヒーをすすっていたが、ソーサーの横にはスティックシュガーの空袋が3袋。空になったクリームの容器が2個置かれていた。この男2人とも、随分と甘党らしい。
コーヒーブレイクを挟んだおかげで緊張が解けたななみは、これまでずっと気になっていたことを宮木に尋ねてみることにした。
「一つ聞きたいんですけど、ええですか?」
「私でお答えできる範囲であればなんでも」
「ソルガムナイツって組織には、ウチらの他にどれくらいの人がいはるんですか」
宮木は小さく名前らしきものをつぶやきながら、指を一本づつ折っていく。その所作が2回行われた時点で、宮木は言った。「お二人を含めて10人です」
「なんや意外と少ないんですね」
「ヒーロー業界も人手不足なんですよ。私も上からせっつかれてましてね。とっとと有望な人材をハントしてこいと」
「宮木さんってスカウトマンっていうか、営業みたいなもんなんですか?」
宮木はこくりと頷いた。
ヒーロー組織に営業部があるというのがなんとも滑稽だ。ファンタジーな要素が消え、たちまち現実的なものに思えてくる。
「せやけどヒーローの素質を持った子なんて、探せばようさんいるんと違います?私でもなれるんやし、ほら、真堂君かて」
こんな華奢で中性的な少年が、ヒーローに向いているとは思えない。
ななみの意図を察したのか、真堂がむっとした表情になる。
「なに?僕なんかがヒーローじゃ不満なの」
「いやそういうわけちゃうねんけど。まあ言うたら悪いけどあんまり強そうやないし、なんで真堂君が選ばれたんかな思って」
「それを言ったら橘は女の子でしょ。ヒーローに選ばれてるのが意味分からないんだけど」
「それはウチが一番変やと思ってるわ!」
使命を背負って戦っているとはいえ、2人ともまだ中学生だ。些細な事で喧嘩に発展することもある。子供同士の諍いを仲裁するのは大人の役目であり、それを担う宮木は甘いコーヒーを一口飲んだ後、「まあまあ、落ち着いて」と気のない声で喧嘩を止めた。
「順を追って説明しましょう。まずはなぜソルガムナイツが慢性的な人手不足に陥っているかについてですが」
企業が人手不足になる原因は、大抵の場合賃金が安いか、労働環境が劣悪かの2つだ。ソルガムナイツに入ってから給料の話は出ていないので、この組織がヒーローに金を払う気がないことは分かっている。とすれば労働環境のほうだ。
思い返してみれば、授業中や休日など関係なく、事件が起きればすぐに呼び出されるのが当たり前になっていた。これを劣悪な環境と言わずして何という。ワークライフバランスの崩壊もいいところだ。
「人が足りない原因は、殉職ですよ」




