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親睦会

 

 ななみは少年にゆっくりと近づいたが、なんと声をかけるべきか分からず、しばしの間口をつぐんだ。

 

 ヒーロースーツが破壊されることにフェチズムを感じるという層は一定数存在する。どのような破壊のされ方に興奮を覚えるかは人それぞれ。顔面を覆う強固なマスクが割れたり、肩や足など一部分だけが破れるのが好きという人もいる。

 

 中でも屈辱的なのは、溶かされるというシチュエーションだ。

 

 スーツの生地を溶かせるということは強い酸性か何かであり、本人へのダメージも最も深刻である。それだけ恐怖感を強く感じるわけで、ななみの場合はヒーローではなく敵幹部がそうなっている姿が好みであるが、どっちにしても性的であることに変わりはない。強いはずの存在が恐怖におびえている姿ほど、脳に快楽を与える光景は存在しないと確信できる。

 

 少年はまさにその攻撃を受けた直後だ。

 

 「えらい酷いことされてたなあ。あんた大丈夫?」

 

 悩んだ挙句に出たのは、そんな言葉だった。見るからに大丈夫とは思えないが、露になった皮膚には焼け跡などは見られないので、身体的ダメージはそこまで大きくないのかもしれない。問題は精神的なほうだろう。

 

 肩で息をしていた少年が、顔を上げる。

 

 「油断したよ。まさかあんな魔法みたいな能力を持ってるなんて」

 

 ななみが差し出した手を握り、少年は立ち上がった。まだ足腰がフラフラとしている。

 

 「ウチは橘ななみ。見ての通り魔法少女や。ほんであんたは?」

 

 「真堂晴。ソルガムナイツには入ったばかりの新人だよ」

 

 「そうなんや。実はウチも今年の春からやねん。ほなウチら同期みたいなもんやな」

 

 ヒーローと魔法少女。職種は違えど、悪を成敗して市民を守る正義を背負った者同士だ。

 

 握った真堂の手は、スライムでぬるぬるとしていた。

 

 

 後日に宮木と真堂を交えて、親睦会という名目で3人でランチに出かけることになった。

 

 はたから見れば、宮木は2人の保護者のように思われるだろう。休日に親子3人連れだってランチ、なんとも仲睦まじい様子だ。

 

 だが実際のところは、ヒーローと魔法少女、そしてそのスカウトマンの3者である。

 

 お昼時を過ぎたタイミングもあって、店内は落ち着いている。ななみたち以外の客はまばらで、暇を持て余したホールスタッフの2人が、さっきからずっと雑談に興じている。

 

 ななみはドリア、真堂はハンバーグ、宮木はパフェをオーダーした。

 

 「いきなりデザートって。宮木さん、お昼もう食べてきたんですか」

 

 人をランチに誘っておいて、自分だけ先に食べてくることなどあり得るのだろうか。

 

 「ファミレスのメニューはあまり口に合わないんですよ。ただし甘いものは別。このチェーンのパフェは絶品なんです」

 

 スーツ姿とパフェの組み合わせは、なんともミスマッチだが、宮木の場合は様になる。ホイップクリームをスプーンですくい取る所作は優雅で、数百円のパフェが高級スイーツに見えてくるから不思議だ。ななみも食事作法には気を付けているが、箸の使い方が変だと指摘されることもたまにあるので、自らを省みようと心に誓った。

 

 親睦を深めるということで集まったが、主催者の宮木があまり話を振ってくれない。

 

 真堂は自分から積極的に話しかけるタイプではなく、ハンバーグをもくもくと口に運んでいる。今日の真堂は、スライムの襲撃にあっていた時よりは年相応に見えた。やはりエロいシチュエーションは、人を何割増しかで色っぽく見せるのだろう。


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