私なんかした?
4限目終了のチャイムが鳴った。
午前中にモンスターに襲われ、その後の体育の授業ですっかり体力を使い果たした私の胃袋は、食べ物を求めて唸り声を上げている。目当てのメニューが売り切れる前にと、食堂に急いで向かう生徒もいるが、私は母親お手製の弁当を持参して教室で食べることにしている。メニューは曜日ごとに固定されており、今日は水曜日なので冷凍のミニハンバーグとポテトサラダ、それにプチトマトときんぴらごぼうの4点セットだ。
恵と机を付き合わせていつものようにランチタイムを過ごしていると、真堂が教室に戻ってきた。手には購買で売られている総菜パンが一つ。育ち盛りの男子がそれで足りるのだろうか。
真堂は自分の席に座り、隣で固まっている男子グループと二言三言会話を交わしてからパンを口に運んだ。彼はクラスで目立つほうではないが、決して友達がいないというわけではない。だが他の連中のように集団でふざけて騒ぐようなことはしないし、必要以上に深く関わろうともしていない様子だ。それが彼のミステリアスさをより際立たせている。
「そうだ、私真堂君にお礼言ってない」
「お礼って?」
「実験の時に手伝ってもらってたんだよ。私の顕微鏡が壊れててさ」
そのあと触手の奇襲にあい、すっかり失念していた真堂への礼をしようと、私は彼のもとへと近づいていった。
「ねえ真堂君。さっきはありがとう」
わずかな緊張と恥ずかしさをうまく隠して言ったつもりだったが、私に話しかけられた瞬間に真堂の顔に不信感のようなものが浮かんだ。そんなに不自然だったのか。
「さ、さっきって…?」
いや、彼のほうも緊張している様子だ。クールなイメージが強かった真堂の、こんなに狼狽している顔は初めて見た。
「ほら、実験の時。微生物の観察を手伝ってくれたでしょ」
「あ、ああそっちね。気にしないで。僕ああいうのは得意だから」
そっちとはなんだ。私が真堂に助けられたことなんてそれしかないはずなのだが。
これ以上話すことはないとでも言いたげに、真堂は私に背を向けて小走りで教室を出ていった。
「なんか嫌われることでもやったの?」
恵は眉尻を下げて心配そうな表情を作っているが、声はどこか弾んでいる。こじれた人間関係ほど面白いものはないと、知り合って3日くらいの時に言っていたことを思い出す。
「別に!」
その日は一日中、心が落ち着かなかった。午後の授業中も、右斜め前に座っている真堂を何度も目で追い、なにか心当たりがないかを必死で思い出そうとした。しかし彼が私を避ける理由に、まったく心当たりがない。
本当に私、なんにもしてないよね?




