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聞き覚えのある悲鳴

 

 「なにをやっているんですか、橘さん?」

 

 ななみが出迎えた客は、見覚えのある男だった。

 

 「宮木さん、なんでここにおるんですか!」

 

 笑顔が引きつり、口角が小刻みに痙攣する。

 

 「訊いてるのはこちらですよ。ステッキが反応しているのに、こんなところで油を売っている場合ではないでしょう。早く現場に駆けつけないと。それがあなたの務めなんですから」

 

 今日も今日とて仕立てのいいスーツに身を包んだ宮木が、わざとらしく溜息を吐いてみせた。

 

 「ウチかて四六時中ステッキ携帯してるわけ違うし、さっきは気付かんかったんです。別に無視したとかそんなんちゃいますよ」

 

 「バレる嘘は吐かないほうが賢明ですよ。ステッキに信号を送っているのは私です。それにあなたの行動は全て、ステッキを通じて監視しているんですよ。先ほどの橘さんの独り言も、もちろん聞こえていましたとも。大事な青春の一ページ?魔法少女になった時点で、プライベートはないものと思ってください」

 

 まるでブラック企業の言い分だ。それならそうと、契約時点で明記しておくべきではないのか。

 

 「でもほら、せっかくメイド服も着たんやし、今日くらいは仕事休んでもええでしょう?」

 

 その場で華麗に回転し、スカートがふわりと舞う。これだけ見事に着こなしているのだ。それを脱ぎ捨てて戦地に赴けというのは、あまりに酷ではないか。

 

 「ダメです。今すぐ現場へ直行すること。場所は隣町の商店街。あの寂れたアーケード街ですよ」

 

 まったくとりつく島もない。ななみはロッカールームへとぼとぼと戻り、メイド服を脱ぎ捨てた。


 

 指定された商店街は、初めて足を踏み入れる場所だった。電車の車窓からいつも見えていたはずだが、あまりに存在感が薄い。その理由は、現場に到着してみてすぐに判明した。

 

 ほとんどの店のシャッターが降りているのだ。

 

 近年は大型ショッピングセンターに客を取られたせいで廃れてゆく商店街が多いとは聞いていたが、まさにお手本のような寂れ方だ。アーケードの屋根には落ち葉が積もっており、まったく手入れがされていないことが伺える。入ってすぐ右にある豆腐屋は、看板こそまだ出しているが、店内はもぬけの殻だ。かつてはここも、豆腐を求める主婦たちで賑わっていたのだろうか。

 

 自分が生まれる前の時代に思いを馳せていると、ステッキの引っ張る力が強まった。

 

 クリーニング屋の抜け殻と、精肉店の抜け殻の間を通って角を曲がった瞬間に、商店街の静寂が破られた。

 

 「ぐああぁぁぁぁぁ!」

 

 苦痛にもがく声は、女性のものだった。

 

 ななみには、その声にどこが聞き覚えがある気がした。


 

 


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