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メイド喫茶だったもの

 

 文化祭の準備は滞りなく進んだ。教室をメイド喫茶風に飾り付けるのは中々骨の折れる作業だったが、完成した時の達成感はひとしおだった。

 

 メイド服が似合わないと言われていた栗栖は、周りの意見などどこ吹く風。陸上で鍛え上げられた筋肉がフリフリのメイド服から覗く、斬新なスタイルで本番に臨むつもりだ。ななみが看板娘なら、栗栖は用心棒に据えておくのがいいだろう。他校からの生徒もたくさん見に来るので、怪しい輩がいれば栗栖に追っ払ってもらおう。まさかななみが魔法で撃退するわけにもいくまい。

 

 ティーセットの搬入も終わり、あとは当日を迎えるだけになった。これだけ苦労して準備したものを、2日後には撤去しないといけないのは少し寂しい。だが祭りとはそういうものなのだろう。

 

 中学に入って初めて迎える文化祭。

 

 その前日は事件に駆り出されることもなく、平和な一日だった。このまま何もないといいのに。

 

 そう願ったななみの希望は、あっけなく打ち砕かれた。

 

 

 文化祭の当日、姿見の前でメイド服の着こなしをチェックする。自分で言うのもなんだが、他のクラスメイトに比べてダントツで似合っている自信はある。

 

 客のコントロールを行うため、店は予約制にしてある。午前の部からすでに予約は満席で、忙しくなりそうだ。家でひっそりと練習した営業スマイルを貼り付け、メイド喫茶と化した教室へと向かおうとした、まさにその時。

 

 「嘘やろ、こんな時に?」

 

 カバンの中に入れてあるステッキが振動した。事件だ。

 

 「いや、無視や無視。ウチかてそんな毎回現場に行けへんわ。こっちは大事な青春の一ページを刻もうとしてんねんから」

 

 ステッキからの通知を無視するのはこれが初めてだ。もしペナルティがあったらどうしようと怖くなったが、今は何よりメイド喫茶を成功させなくては。振動の勢いが激しくなり、カバンの生地の向こう側で赤く光っているのが分かるほどに、光量も増していった。

 

 「うるさいなあもう。どうせ行っても大したことないんやろ。それやったらウチはメイドさんのほうやらせてもらうわ」

 

 ななみはカバンの中で暴れまわるステッキから目を背けてロッカールームを出た。

 

 教室に着くと、既に朝一の部の客が入っていくところだった。栗栖がテキパキとした動きで席まで案内しているが、やはりメイドというよりも居酒屋のようなテンションだ。彼女に接客を任せたのは間違いだったかもしれない。

 

 「いらっしゃーせー!2名様ご案内!」

 

 裏方に回っている男子たちが釣られて、「あいよ!」と威勢のいい掛け声を返す。

 

 これもこれで面白いのかも。ななみは練習した甘ったるい声と媚びた営業スマイルを忘れ、入店待ちをしていた男性客に、大きな声で言った。

 

 「いらっしゃーせー!」

  


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