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フリフリが苦手なフリ

 

 秀でた容姿のせいで注目を集めてしまうのは小学校の時と変わらなかったが、一つだけ違うことがあった。クラスの中心的存在になった栗栖は、ななみを特別扱いすることなく、分け隔てなく接してくれた。栗栖がそうするのを見て、他のクラスメイトたちもななみへの接し方を改め始めたのだ。

 

 過度に優秀な成績を期待されることもない。大役を押し付けられることもない。

 

 ななみは栗栖のおかげで、伸び伸びとした学生生活を謳歌していた。感謝してもしきれない。梓とはまた違う、大事な友人が出来たと思えた。

 

 しかし中学生になってまだ2ヶ月。ここで変に心を許して、所蔵しているエロ漫画を見せでもしたら最後。ななみのイメージは崩れ去り、栗栖も愛想を尽かしてしまうだろう。あいにくクラスには特殊な趣味を密かに共有できそうな人間は見つからず、ななみの中で悶々とした気持ちが渦巻いていた。

 

 相変わらず魔法少女としての活動も継続中だ。いつ駆り出されてもいいように、出来るだけ自由に使える時間を確保していく必要がある。

 

 そのためクラブには入らず、放課後はまっすぐ帰宅するようにしていた。複数のクラブから入部の誘いがあり、断るのは気が引けたがしょうがない。陸上部に入部した栗栖からも一緒に入ろうと勧誘を受けたが、走るのが遅いからと理由をつけて断った。

 

 

 1学期の間に起きた事件は、どれもこれも大したものではなかった。スーパーで万引き犯を捕まえたり、貧血で路上に倒れた中年男性を家まで運んだり。警察と救急で対処できるものばかりだったし、なんなら地域の見守りボランティアで事足りる。これが本当に魔法少女の務めなのかと宮木に何度も詰め寄ったが、そのたびにやはりこう言われた。

 

 全ては悪の組織が裏で操っている。それを暴くために、地味な戦いを続けるのだと。

 

 夏休みが明ける頃には、魔法少女も板についてきた。ステッキを振りかざす動きは洗練され、一切の無駄なく魔法を放てるようになった。最初のころは単調な攻撃や、ちょっとした念動力程度のものしか使えなかったが、今では出来ないことのほうが少ないくらいに、ななみの習熟度は高まっている。強盗に襲われた店員の記憶を消去したように、人の感情や感覚をコントロールする術まで身に着けた。

 

 ななみの成長スピードの早さには、宮木も素直に感心している。魔法少女の素質があると見抜いた宮木の目は本物だったのだろう。

 

 そしてついに、運命の日がやってきた。

 

 2学期になり、文化祭を1週間後に控えた秋の日のこと。

 

 ななみのクラスは文化祭の定番、メイド喫茶をやることになっていた。普段からフリフリの戦闘服を着ているので着こなせる自信はあったが、どうにもメイド服となると恥ずかしい。ななみとは対照的に、絶対に似合わないくせにノリノリの栗栖は、完成した衣装を見てはしゃいでいる。

 

 「見てこれ、かわいい!私こういうの着るの初めてなんだけど。やばい、めっちゃテンション上がる!」

 

 スポーティーな雰囲気の栗栖は、男子よりも女子からの人気のほうが高い。もともと短かったショートカットの毛先をさらに切り、秋仕様になった栗栖は、遠目から見れば男子に見紛う容姿だ。目鼻立ちは整っており、骨格もシャープなので、ベリーショートでも似合ってはいるのだが。

 

 「このクラスでメイド服が一番似合うのって誰だと思う?」

 

 作業にいそしむ教室の面々に栗栖が尋ねる。

 

 自分と言ってもらえる可能性を信じているのか、目をらんらんと輝かせている。もちろんクラスメイトは正直だ。栗栖と答えた人間は一人もいなかった。ベリーショートのメイドなど、あまりに奇妙な存在ではないか。

 

 「なんだよなんだよ。じゃあ誰が似合うっての?」

 

 クラスメイトは一斉にななみを指さした。

 

 「ええ、ウチ?こんなフリフリしたもん、よう着いひんわ」

 

 魔法少女になって以来、一日のうち実に三分の一の時間をフリフリ衣装で過ごしている。だがそんな事が言えるわけがない。ここはフリフリが初めてというふりをしておこう。


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