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休みが終わるのは早い

 

 春休みの体感時間は、まるで通り雨のように一瞬だった。

 

 小学生から中学生になるための大事な準備期間であり、制服や教科書の用意、そして何よりも心の準備に費やすはずだった時間。それらは魔法少女に就任したことで、全て失われてしまった。

 

 強盗をコンビニごと消し去った翌々日に、宮木から正式な招待を受けてソルガムナイツに所属したななみの日常は、一気に多忙なものへと変わった。事件があれば、昼夜問わずステッキが光りだして、ななみの意思とは関係なく現場へ連行される。酷い時は深夜の2時に、酔っ払いとサラリーマンによる乱闘騒ぎの仲裁に駆り出された。

 

 自分のやりたかったことは、こんなことじゃない。そもそもこれは警察の領分じゃないかと宮木に抗議もした。

 

 宮木いわく、街で起きている暴行や乱闘などの事件には、裏で悪の組織が絡んでいると言う。戦い続ければ、いずれ相手は尻尾を出す。ななみが不満を伝えるたびに、宮木からそう説得された。

 

 そうしてななみの短い春休みは、街の治安維持のために消え去ったというわけだ。 

 

 入学式で来賓の長いスピーチを聞いている間、戦いの疲れから何度か意識が飛びかけた。会場には新入生、在校生含めて約600人。自分一人が舟をこいでいたところで目を付けられる可能性は低いが、油断はできない。初日からだらしない生徒だと思われるのは、今後の学生生活におけるマイナスだ。

 

 手の甲をつねったり、足を組み替えたりしながら、なんとか眠気に打ち勝った。長い式典が終わり、それぞれの教室へと向かう。

 

 座席は出席番号順に割り振られており、ななみの席は、窓側から数えて3列目の後方だった。ここからだとクラスメイトの顔がよく見える。全体を見回すと、すでにグループを作っている生徒たちも見受けられた。同じ小学校出身の仲間で群れている生徒もいる。

 

 ここに梓がいてくれれば、と思わずにはいられない。

 

 変態的趣味を共有できる唯一の友人であり、彼女のような人間とは、中学で出会える気がしない。

 

 卒業以来一度も連絡を取っていなかったので、メッセージを送ってみようかとスマホを弄っていると、後ろに人の気配を感じた。スマホから顔を上げて気付く。取り囲まれている。

 

 連日の戦いのせいで鋭敏になった危険度センサーが反応した。椅子を蹴って立ちあがり、戦闘態勢を取る。

 

 「わっ、ごめん。驚かすつもりは無かったんだけど。そんなに警戒されるとは思わなかったよ」

 

 ななみを取り囲んでいた女子5人グループ。そのリーダー格と見られるショートカットの女子生徒が、けらけらと笑った。

 

 「めっちゃ可愛い子がいるじゃん、と思ってね。話しかけようってなかったんだけど、こいつらがビビッちゃって。じゃあみんなで絡みに行こうってなったわけ。私は栗栖 麻湖。よろしくね!」

 

 栗栖と名乗った快活な少女が握手を求めてきた。どうやら敵意はなく、ななみと親睦を深めたかっただけのようだ。ステッキを握る形になっていた拳を見下ろし、急に恥ずかしくなり、顔が紅潮した。ステッキ自体はカバンに忍ばせているが、反射的に取り出さなくて良かった。

 

 握った拳をゆるめ、そのまま栗栖の手を握り返した。

 

 「ウチは橘ななみ、いいます。よろしゅうお願いします」

 

 もう自分を偽るのはやめだ。慣れない関西弁に、栗栖とその取り巻きは妙にテンションを上げている。

 

 


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