いつか会える日まで
「全部見てたんですか。ウチが強盗と戦うとこ」
「ええ、しっかりと。初めての実戦なのに、とても上手に魔法を使いこなせていましたね。さすが私が見込んだだけのことはあります。まあ、コンビニを消し炭にしたのは予想外でしたが」
宮木がふっと口元を歪めて笑う。
「ウチ怖いんです。わざとちゃうとはいえ、人一人を殺してしもたんですよ。これが正義の味方のやることやとは思えへん」
強盗と対峙した時は極度の興奮状態にあったため、罪悪感を感じていなかったが、冷静になった今では、自分の犯した罪の重さに震えが止まらなくなっていた。
「では、魔法少女を辞めますか?それならば今ここでステッキを返却してください。退任の手続きはこちらで済ませておきますよ」
宮木が手のひらを上に向けて、こちらへ差し出してきた。ステッキをここに置けば、全てが終わる。今まで通りの日常に戻ることができる。
ステッキの柄を掴むななみの手から、力が抜けていく。
ステッキがななみから宮木に渡ろうとした瞬間だった。
「やっぱり嫌!」
宮木の手のひらに触れかけたステッキを掴み、胸に抱える。
「おや、それでは魔法少女を続けるということですね」
初めからななみがそうするのが分かっていたように、宮木は意外でも何でもない様子だ。
人殺しがしたいわけではない。ななみはただ、悪を成敗する快感が忘れられなかったのだ。大の大人が、年端もいかない子供相手に腰を抜かして怯える光景が、脳裏に焼き付いていた。命乞いされた時の高揚感。まるで自分が全能の神になったかのような錯覚に陥った。
もしもここでステッキを手放してしまえば、おそらく一生あの感覚は味わえないだろう。幼いころから憧れていたヒーローとは少し違う形だが、限りなく近い形でもある。二度と巡ってこないかもしれないチャンスを、みすみす逃すほどななみも愚かではない。
それに今回は相手が強盗で、しかも外見的にも麗しくない男だったが、戦い続けていればそのうち、理想の相手にめぐり合えるかもしれない。そう、セクシーで淫靡で高飛車な、成敗のし甲斐がある悪の女幹部に。
「やります。ウチ、魔法少女続けます!」
宮木は口角を吊り上げて、営業用の笑顔を作った。
「素晴らしいご決断です!では橘さん、改めてよろしくお願いします。ようこそ、ソルガムナイツへ」
詳しい話は後日ということで、その日は公園で解散となった。
家に帰って、急いで米を洗い、炊飯器のスイッチを押した。なんとか母の帰宅までに炊きあがるはずだ。
自室へ戻ってベッドに倒れこみ、天井を見上げて考えた。
日常が終わった、と。
魔法少女として生きていく人生が、いつまで続くかは分からない。成人した魔法少女など見たこともないので、おそらく賞味期限は高校生くらいまでだろう。
ななみは今小学生と中学生の間だ。つまり、最低でもあと6年は非日常が続くというわけだ。
ベッドに横たえたステッキをぼうっと見つめながら、独り言つ。
「いつか会いたいなあ…。いやらしい敵に」




