小学生なら許される
命乞いをされるのは、悪い気分ではない。ななみは、自分が圧倒的に優位な立場に立ったことを実感した。
玩具のような魔法のステッキを向けられ、大の大人が情けなく震えている。よほど一撃目の魔法が堪えたのだろう。折れたと主張する足を抑えながら、強盗は体を左右にねじって後退していく。
ななみの体が熱を帯びる。興奮のせいでひどく喉が乾く。これが強者の見る世界。ヒーローが悪を蹂躙する感覚なのか。
相手が強盗とはいえ、すでに危害を加えてしまった事実は消えない。それならば、いっそのこと徹底的にやってしまえばいい。これが大人同士の乱闘なら話は別だが、ななみはまだ世間的には小学生だ。殺しさえしなければ、正当防衛は成立する可能性が高い。
「ウチなあ、怖かってんで。大人の男の人に襲われそうになって、泣きそうになったわ。こんなか弱いウチを、あんた一体どうするつもりやったん?」
「どこがか弱いんだ、そんな危ない武器持ちやがって。お前何者なんだ!」
「魔法少女や」
ステッキから光の球を放ち、男の顔のすぐ横の床に穴をあけた。先ほどよりも威力を抑えたので、コンビニの床のタイルが砕けた程度で被害は抑えられた。あとで損害賠償請求をされたら、強盗に払ってもらうとしよう。
「そんな暴力的な魔法少女がいてたまるか!お前さっきから目が怖いんだよ。服装だけ少女チックなくせに…」
「あれ、もう命乞いは済んだん?」
ステッキの先が三度光り始めると、強盗は顔面蒼白になった。
「わ、分かった。金は返す。だから見逃してくれ。な?」
「金返すんは当たり前や。それで見逃してもらえるなんて、都合のええ話あるかいな。あんたがやったんは犯罪や。ここできっちり償ってもらうで」
本心はコンビニの被害などどうでも良かったし、目の前で情けなく震える男がどうなろうが興味は無かった。ただ、正義という大義名分のもとに悪を罰する自分に酔いしれていた。
少年漫画のヒーローは、満身創痍の敵になぜかとどめを刺さずに見逃す傾向がある。ななみはずっと、疑問だった。悪を野放しにするのは間違った判断だ。漫画だと、話の都合上同じ敵が再犯をする展開はめったに起きないが、現実では再犯率が決して低くないのだ。ここで仕留めておくのが世のためだ。
二度と強盗に手を染められないように、四肢の骨を粉砕でもしてやればいいだろうか。さすがに命を奪うまではしないが、精神的、肉体的トラウマを植え付ければ、きっと再犯を防ぐことは出来るだろう。
ななみはステッキに意識を集中させ、強盗に向けて魔法を発射した。
コンビニが炎に包まれた。




