目覚めた力となにか
ステッキが震える。スマホのバイブレーションのように、小刻みな振動が止まらなくなった。取り落とさないように、しっかり両手で捕まえるので精一杯だ。
先端に灯った光の球は、握りこぶし大のサイズから、あっという間にバレーボールくらいの大きさにまで肥大化した。何かしらのエネルギーが集まっているのは明らかだが、ななみにはそれをどう処理すればいいのか分からない。とりあえず敵に向けて放てばいいのだろうか。
「どうなっても知らんからな!」
暴れるステッキを掲げて、強盗に向かって振り下ろした。ななみが放った言葉は、自身と強盗の両方に向けられていた。どうなっても知らない。ここまで来たら引き下がることなど出来はしないのだ。
光の球はステッキから離れた途端、急加速した。目にもとまらぬ速さで飛んでいき、強盗の膝を直撃する。
「ぎゃああ、折れた、これ絶対折れた!」
強盗は膝から崩れ落ち、体を折り曲げて悶え始めた。質量を持たないはずの光に、人間の骨を粉砕する威力があるとは恐れ入った。
強盗はレジの金を入れた袋を取り落とし、紙幣が散乱する。こうしてみると、本当にわずかな金額しか入っていなかったようだ。ななみが今年にもらったお年玉の総額のほうがはるかに上だ。
ひとまずは足止めに成功した。しかしいつ強盗が動き出すか分からない。折れたという人は、決まって折れていないのがお約束だ。きっと強盗の骨も折れておらず、少し強めの衝撃を食らった程度だろう。
ならばとどめを刺しておかないといけない。ななみはもう一度ステッキを構えた。すぐに光の球が再生成される。エネルギー源が何なのか不明だが、特に体力を奪われた感覚もないので、ななみ自身ではないどこかから生成されているはずだ。これは実に好都合である。
「ひっ、やめてくれ!さっきのマジで痛かったんだから!」
体を丸めたまま、強盗が命乞いをする。先ほどまでの威勢はどこへやら。
ななみの中で、じわりと熱いものが広がった。
自分の力で悪党を屈服させる。ずっと憧れていた行為を、今まさにしているのだ。相手がエロティックな女幹部でないことだけが残念だが、贅沢は言っていられない。
「さっきは足やったやんなあ?そしたら次は、頭いっとこか?」
ステッキの先を強盗のこめかみに突きつける。
「た、助けてくれ!」




