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魔法の使い方

 

 ステッキの強引な力に引っ張られるままに、ななみがたどり着いたのは近所のコンビニだった。小学校からの帰り道に、同級生が買い食いしているところを何度か見た店だ。学校からは禁止されているが、大半の生徒は規則を破っている。

 

 駅から離れており、周辺には住宅街と動物病院くらいしかない立地なので、客はいつもまばらだ。先日利用した時も、若い男性店員が暇そうにレジに突っ立っていた。

 

 だが今日のコンビニは異様な雰囲気に包まれていた。

 

 「レジの金全部出せ!この袋に詰めろ、早く!」

 

 ニット帽にサングラスとマスク。手には包丁。絵にかいたような強盗が、店員に金を出せと命じている。切っ先を向けられて悲鳴を上げているのは、若い女性店員だ。名札には研修中のバッジが付いている。

 

 「てめえ聞こえてねえのか!早く金を詰めろって言ってんだよ!」

 

 店員は慌てふためくばかりで、一向に強盗の指示に従おうとしない。それにしびれを切らした様子で、強盗はレジの内側へと乗り込んでいった。ドロワーを開けて、中身を乱暴に袋へ詰め込む。

 

 「はあ?全然入ってねえじゃねえか!」 

 

 強盗の手に握られた1万円札の枚数は、およそ4万程度。口ぶりからするに、5000円と1000円も大した数が入っていなかったのだろう。時代はキャッシュレスだから、現金が少ないのは当然である。

 

 今にも泡を吹いて倒れそうな女性店員の胸倉を掴み、強盗は大声を張り上げる。

 

 「裏に金庫があんだろ!それも全部持ってこい!」

 

 揺さぶられた女性店員は、よく聞き取れない言葉を発したのを最後に、意識を失って動かなくなった。あまりの恐怖に脳がパンクしてしまったのだろう。

 

 ななみもその場から逃げようとした。しかし強盗が女性店員を乱暴に床に放りだしたのを見て、ななみは足を止めた。

 

 目の前で人が襲われている。リスクを犯したわりに少額しか手に入らなかった腹いせに、強盗は店員を刺すかもしれない。失うものがなくなった人間は、なにをしでかすか分からないものだ。

 

 あなたにはヒーローの素質がある。宮木はななみをそう評していた。

 

 今ここで逃げて、果たして後悔しないでいられるだろうか?

 

 答えは決まった。ななみはステッキの柄を握りしめ、バックヤードへ侵入しようとする強盗の背中に声を投げかけた。

 

 「そこの強盗、待ちなさい!」

 

 警察を呼ばれたと思ったのか、強盗は肩をびくりと震わせて振り返った。だがそこにいるのは警察ではなく、魔法少女の恰好をした少女だ。

 

 「なんだクソガキ、邪魔すんじゃねえ!」

 

 相手が子供だろうが、強盗には関係ない。ナイフを振り上げ、ななみへと突進してくる。

 

 怖い。恐怖がななみの中を駆け巡った。啖呵を切ったのはいいものの、魔法の使い方など何も知らない。どうやって戦えばいいというのだ。

  

 早くも正義感からの軽率な行動を後悔し始めていたところ、ステッキの先が光り始めた。


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