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少女に拒否権はない


 床を滑ったステッキが壁に当たり、ごつんという音を立てた。玩具のように見えて、案外丈夫な素材で出来ているらしい。ななみはベッドに突っ伏して、魔法少女にされてしまったという現実から目を背けようとした。

 

 一気に色んな事があって疲れたせいだろう。窓から差し込む春の日差しの心地よさも相まって、いつの間にか眠りに落ちていた。目が覚めて時計を見ると、すでに時刻は16時を回ったところだった。そろそろ母親が帰ってくる。晩御飯用のご飯を炊いておくのはななみの仕事なので、早く準備に取り掛からないといけない。

 

 ベッドから起き上がり、姿見に映る自分の姿を見る。服装が自前のワンピースに戻っていた。帰宅した時は、まだフリフリの魔法少女の衣装だったが、寝ている間に魔法が解けたのかもしれない。いっそのこと全てが夢であってほしかった。

 

 だが、部屋の隅に転がるステッキが、公園での出来事が現実であると突きつけてくる。

 

 扉を開け、廊下へと一歩踏み出したのと同時に、ステッキにはめ込まれた宝石が赤い光を放ち始めた。

 

 「なんなんもう!ご飯の準備せなあかんねんから、大人しくしといてや」

 

 無機物に文句を言っても仕方がないと分かっているが、不満を漏らさずにはいられなかった。しかも光り方がまったく可愛くない。女児向けアニメであればキラキラと輝くところだが、ななみのステッキの光り方はまるでパトカーの赤ランプだ。いかにもな危機感を伝えてくるものだから、目にも心臓にも悪い。 

 

 無視してリビングに降りようと思ったが、ステッキがそれを許してくれなかった。公園で放り投げたときと同じ、ふわりと宙に浮き、ななみの手元に収まってきた。何度放っても帰ってくる、まるで呪いの人形だ。

 

 「ちょっ、なんで腕上がるん⁉まさかまた変身させる気?」 

 

 またこの感覚だ。見えない糸に引っ張られているように、ステッキを持つななみの腕が頭の横にあげられる。その力はあまりに強く、小学校を卒業したばかりの女子が抵抗できるものではなかった。

 

 部屋が光に包まれる。

 

 「もう嫌やあ、こんな恰好」

 

 姿見に映っているのは、魔法少女と化したななみだった。


 

 ステッキを持った腕が、強引な力で引っ張られる。近所の犬に服の袖を噛まれて、ぐいぐいと犬小屋のほうへ引き込まれた時のことを思い出した。

 

 「どこ連れていくつもりなんよ。あんた魔法のステッキなんやろ?ほならウチが主人や。せやのになんであんたが主導権を…」

 

 ステッキからの返答はない。警戒心を煽る赤ランプを発しながら、ななみをどこかへ誘導しようとしているようだ。


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