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魔法少女になりたくない

 

 ななみは走った。とにかく1人になりたかった。宮木が止めてくるかと思ったが、追いかけてくる気配もないので、無我夢中で家までの道を疾走する。

 

 魔法少女の衣装で、しかも靴はヒールときたものだから、走りにくいことこの上ない。何度か転びそうになったが、なんとか無事に家にたどり着いた。

 

 玄関の鍵を開けようとして、鍵を鞄ごと公園に置いてきたことに気付いた。しかし今更戻るわけにもいかない。家の中には誰もいないので、いくらインターホンを鳴らしたところで無意味だ。そう頭では分かっていながらも、早くこの姿を隠したいという一心から、何度もインターホンを押した。

 

 「あかん、どうしたらええんやろ。こんな恥ずかしい恰好してるとこ近所の人に見られたら、ウチもう外歩かれへんやん」

 

 低学年までなら、ご近所さんもほほえましいと感じる程度で、それ以上何も思わないだろう。しかしななみはつい先日、小学校を卒業したばかり。あと数日で中学生なのだ。さすがに魔法少女のコスプレで出歩くには、年を取り過ぎている。

 

 ふと、幼いころに見たアニメを思い出した。主人公の魔法少女が、驚異的な身体能力を手に入れて、ビルの谷間を軽々と飛び越えているシーン。もしかして自分にも、並外れた運動能力が備わっているのでは?

 

 ななみはヒールの踵に力を込め、地面を蹴った。

 

 「ひいっ⁉」

 

 目の前が一瞬にして青空に支配された。眼下に広がる自宅と、まだ住み慣れない街。あまりに高く跳躍しすぎたようだ。咄嗟に手を伸ばして掴んだ細いものは電線で、体に電流が走る。全身の毛が逆立ち、声にならない悲鳴が漏れた。

 

 一瞬意識が遠のき、重力に従って体が地面へ向かい落ちていく。後頭部を自宅の庭の地面に、思い切りぶつけてしまったが、不思議とあまり痛みはない。衝突した箇所を擦ってみても、出血もなければたんこぶも出来ていなかった。魔法少女というのは頑丈らしい。

 

 自身の跳躍力をセーブし、2階の自室の窓に降り立つ。窓の鍵をかけずに出てきた不用心さが幸いした。外から窓を開けて、自室へと入る。

  

 ベッドに体を沈め、安堵の溜息をついた。

 

 「はあ…、なんやのもう。頼んでへんのに魔法少女にされるし、なんか知らん力を授かってもうてるし。ウチがなりたかったんはヒーローなんよ」

 

 ななみは力いっぱい、魔法のステッキを自室の隅に放り投げた。


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