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第2章 美少女は転校生

 

 橘ななみという人間を一言で表すなら、美少女が最も最適な言葉だ。

 

 齢13にして、モデル顔負けのプロポーション。出るところが出て、引っ込むところは引っ込んでいる、文句のつけようのない体つき。異性の目を引き付けてやまない魅力を持っていることは、ななみ本人も自覚している。正月にしか会わない親戚のおじさんのななみを見る目が、年を追うごとにいらやしくなっていた。

 

 容姿端麗であることはメリットばかりではない。ただ見た目が優れているというだけで、学校でも特別扱いを受けることが多々あった。学級委員長などの責任ある立場に勝手に推薦され、クラスメイトもそれに賛同する。ななみ自身が立候補したわけでもないのに、事あるごとに大役を任されてしまうのに嫌気が差していた。

 

 劇をやるとなれば主役に抜擢され、そのせいで大量のセリフを覚える必要が生じた。ななみは物覚えのいい方ではない。数学などの思考力が問われる学問は得意だが、単純な記憶力はむしろ人よりも劣っていた。暗記した者勝ちの社会科の成績は、いつも下から数えたほうが早いくらいだった。

 

 なぜ人は、見た目がいいと中身まで有能だと思い込むのだろう。性格は顔に出るというが、頭の出来は顔に出ないというのに。

 

 ななみは美少女に生まれたことを、時たま恨むことがあった。こんな事なら、平均的な容姿に育ちたかった。教室にいても目立たず、クラス写真ではどこに写っているか分からないような、モブキャラで良かったのだ。そのほうが人生が楽だったに違いない。

 

 限界が訪れたのは、今から3年前の10歳の時だった。

 

 周囲がななみに期待する完璧なイメージに応えようと、必死に自分を取り繕ってきた。劇の主演を任せられればセリフも頭に叩き込んだし、演技の練習だって毎日やった。おかげで学校内で賞を受賞したが、そんな事はなにも嬉しくなかった。生徒会にも無理やり入れられて、学校の顔としてポスターにもでかでかと載せられた。

 

 もう嫌だった。

 

 両親に相談して、環境を変えたいと打ち明けると、2人ともななみの頼みを受け入れてくれた。最初は地元の大阪で転校先を探そうとしていたのだが、親の仕事の都合で引っ越しが決まり、ななみは遠く離れた関東の学校に転校が決まった。

 

 ここからやり直すんだ。ななみはそう決意し、教室の扉を開けて中に入った。

 

 入室した瞬間、ざわめきが起こった。転校生とは好奇の目を向けられるものであるが、在校生たちから向けられた視線には、好奇心以外も多分に含まれていた。

 

 ああ、またか、とななみは内心で溜息をついた。

 

 美少女が転校してくるなど、漫画のようなイベントだ。それもクラスで一番かわいい子などというレベルではなく、群を抜いた容姿の持ち主であれば、生徒たちの興奮もひとしおだ。男子生徒の大半は、いやらしく口元を綻ばせている。一度も話したことがないのに、敵意むき出しで睨んでくる女子生徒もいた。おそらくクラス内での自分の立場を脅かされると思ったのだろう。

 

 せっかく新しい学校でやり直せると思ったが、スタートダッシュに失敗したようだ。落胆を顔に出さないようにしながら、ななみは用意した定型文をそのまま暗唱した。

 

 「橘ななみ、と申します。出身は大阪府。父親の仕事の都合で引っ越してきました。皆さんと仲良くできれば嬉しいです」


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