ヒーローへの脅迫
「なにを喧嘩してんのよ、2人とも。せっかく戦いも終わったんやから、仲良うしようや」
「仲良く?そんなの出来るわけない。だってこいつはノクター…」
ななみには正体がバレたくない。願わくば友人のままでいたい。その思いから咄嗟に、私は真堂の口をふさいだ。ななみは不思議そうにその様子を見ている。
私の意図を理解したうえで、なおも正体をばらそうと口を開きかける真堂。こうなったら仕方がない。強硬手段だ。
私は真堂の肩に顎を載せて、耳元で囁いた。
「お願い、真堂君。ななみには喋らないで」
「んぐっ…」
口をふさいだ手に力を入れ、真堂に圧をかける。私の指先から触手が出ることは知っているので、真堂もかなり警戒している様子だ。
「分かった?」
横目で睨んで問いかけると、真堂はわずかに目を逸らしたのちに、小さく頷いた。これは了承のサインと捉えていいだろう。
「えらいべったりくっついてるやん。ほんまは仲良しなんやろ?」
2人の間で交わされた交渉を知らないななみは、ふわふわとした笑みを浮かべている。
口を抑えていた手をゆっくりと離す。まだ手のひらに、真堂の唇の熱が残っていた。
「もしも僕が約束を破って、橘に本当のことを話したらどうするつもり?」
敵に主導権を奪われて屈辱的な表情の真堂が尋ねてきた。悪あがきのつもりだろうか。
私の答えは決まっていた。
「殺す」
爪先から触手を出して、真堂の腰に巻きつけた。ななみからは見えないように、自分の体が陰になるように体勢を整える。
「私はこれから橘さんと話があるから、席を外してくれる?」
真堂がまだ抵抗の意思を見せそうだったので、触手で彼の細い体を締め上げた。このまま力を込めれば、内臓が飛び出るかもしれない。
真堂の目が恐怖に見開かれた。
私の指示通り、真堂は屋上を去った。急用ができたとななみには告げていたが、まさか私に脅迫されたとは言えまい。
「どないしたんやろ、真堂君。えらい顔色悪かったけど」
「そんなことよりも聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「さっきさ、真堂君とキスしてたでしょ。あれってどういうこと…?」
ななみは一瞬ぽかんとした顔になり、すぐに破顔した。
「ああ、そのことか。あれはいやらしい行為と違うよ。ただの医療行為」
「い、医療行為?」
「さっきの戦い見て分かったやろ。ウチな、魔法少女やってんねん。それで魔法少女って色んな能力が使えるんやけど、あれもその一種。キスすることで、相手の傷を癒すことができるんよ」
なんて不純な魔法だ。魔法少女なら、ステッキの一振りでヒーリング魔法を使えるものじゃないのか。
「もしかして嫉妬してたん?かわいいとこあるやんか」
「断じて違う。ていうか一回スルーしたけど、魔法少女になった経緯を聞いてないよ。会ってない半年の間に何があったの」
「まあ話せば長くなるんやけど…」
ななみはステッキの先端を顎に当てて、考えるようなポーズをとる。コケティッシュな仕草に、この半年で磨きがかかっていた。




