勝利の後のお愉しみ
ヒーローは勝利の余韻に長くは浸らない。彼にとって悪の討伐は仕事だ。仕事が終わればとっとと引き上げ、残業はしない。
しかし魔法少女はサービス残業大歓迎のようで、私たちに向かって笑顔で手を振っている。男子のみならず、女子生徒までもが、魔法少女のななみにメロメロだ。
「ほら行くよ。もう戦いは終わったんだ」
真堂がななみの手を引くが、彼女は抵抗を示した。
「せっかくやからファンサさせてえや。こんな大勢の前で敵倒すの久しぶりやねん。やっぱりええわあ。拍手喝采を浴びるっていうんは」
悦に入るななみを、真堂が無理やり引っ張って跳躍した。ふわり、とななみのスカートが舞う。2人の姿は、わずか1秒で屋上へと消えていった。
「いやあ、強かったね。あの魔法少女さん!最後の光の攻撃、なにあれ必殺技ってやつ?」
「殺傷能力が魔法少女っぽくないんだけど。髪一本残さずに焼ききるって、それもう兵器レベルじゃん」
ロックが止んだボロボロの中庭には、もうあの女のいた気配すら残っていない。影だけが地面に張り付いているのを見て、小学校の時に見学した原爆ドームを思い出した。確か原子爆弾の被害者の影が、壁にそのまま残っていたのを覚えている。
「てか文化祭無茶苦茶になっちゃったね。あーあ、せっかく準備頑張ったのに」
先ほどの戦いで、クラスの屋台にも炎が燃え広がり、残っているのは骨組みだけになっていた。
「死人が出なかっただけいいでしょ。屋台はまた作ればいいし。それより私、ちょっと用事が出来たから」
「えっ、どこいくの梓。まだそっちのほう危険かもしれないよ。壁とかボロボロだし…」
私には確かめないといけないことがあった。
どうしてななみが魔法少女になっているんだ。答えは本人に問い詰めるしかない。
階段を一気に駆け上がり、屋上への扉を開けた。
「…は?」
自分の口から間抜けな声が漏れた。
屋上の欄干にもたれる真堂。彼の肩に手を回して、そっと口づけをする、ななみ。
私の中で何かが崩れ去った。




