ロックの終わり
ロック女は歯をむき出して叫んだ。
「クソガキが!アタシの演奏を止めるとはいい度胸だな」
女が真堂を威嚇しながら、断線したコードを足で払いのける。真堂の体はすでに傷だらけで、ダメージが蓄積している。これ以上の戦闘は厳しいだろう。しかしギタープレイを止められた程度では、ロックンロールは終わらない。
女の背後にどす黒い煙が渦巻いた。渦の中心から、3体の骸骨が飛び出してくる。全員革のジャケットとサングラスを身に着けており、まるで演奏中に突如白骨化したロックンローラーのようだ。
「まだまだ終わらねえぞ。聞かせてやるよ。アタシの魂のロックを!」
女の叫びを合図に、骸骨がそれぞれの楽器をかき鳴らし始めた。ギター、ベース、ドラムから出る音が、先ほどのように形を持って真堂に襲い掛かる。
「ぐっ…!」
すでに深手を負っている真堂は、骸骨たちの音波攻撃を防ぎきれず、壁に向かって吹き飛ばされた。後頭部を強く打ち付け、体から力が抜けていく。四肢をだらりと投げ出した真堂は、意識こそあるものの、もはや抵抗する余力がない様子だ。
私たちオーディエンスにも動揺が広がる。状況はかなり絶望的だ。もう一度あの攻撃を叩き込まれたら、おそらく真堂は耐えきれない。最悪の場合、絶命することもありえる。
仮に立場を無視して助けに入ったとして、私で相手を抑え込めるだろうか。今の戦闘を見る限り、相手はかなり強い。ノクターン・ロゼの仲間であることを証明しようにも、話の通じる相手ではなさそうだ。
私が逡巡している間にも、ロック女は一歩、また一歩と真堂に近づいていく。
「ガキが大人に勝てるわけねえんだよ。ヒーローごっこは家でやってな!」
ロック女が真堂の腹部に蹴りを入れた。
「がはっ!」
真堂が腹を押さえてうずくまる。その様子を、骸骨たちは棒立ちで見守っている。女の指示がないと、自分の意思では動けないらしい。
「さあ、とっととしまいにしようか」
女がギターを掲げ、真堂の頭に向かって振り下ろした。
私は思わず目を閉じた。人の頭部が砕ける瞬間は見たくない。
凄惨なシーンが訪れると思われたが、何秒経っても、周りからの悲鳴も、頭部が砕ける音も聞こえてこない。恐る恐る目を開けると、そこには仰向けに倒れるロック女の姿があった。




