何をしても消えない炎
青春を謳歌する生徒たちの笑い声は、瞬く間に悲鳴に変わった。
出火場所の中庭ステージ周辺は、逃げ惑う人々で溢れかえっている。軽音部で真っ先に避難を始めたのは、ドラムの男子だった。スティックを投げ出し、炎に包まれるドラムには見向きもしない。続いてベース、ギター、ボーカルの順で、ステージから慌てて降りていった。ボーカルが最後まで残っていたのは、自分の歌を一秒でも長く聞かせたいという意地だろうか。
中庭ステージには美化委員が丹精込めて育てた花も飾られていたが、それもあっけなく燃えてしまった。騒ぎを聞きつけた教師が現場へやってきて、ステージに近づかないよう生徒に呼びかける。
ちょうど出火の現場は、屋台からも見ることが出来た。しかし何が原因だというのだろう。いったんたこ焼き器の電源を落として、恵と一緒にステージのほうへ目を向けた。
流れてくる煙に恵が目を擦る。
「軽音部の機材トラブルじゃないかな。アンプから火が出るなんて話、聞いたことあるよ」
恵の言う通り、機材関係の不調が原因なのかもしれない。だが、上がっている火の手はあまりに大きく、アンプの出火程度とは到底思えない。
「確かにウチの軽音部って、ライブのたびに何かしらのトラブルは起こしてるけど。それにしたって今回はレベルが違うよ。だって見て、あれ」
それはもはや火柱だった。真っ赤に燃える竜のごとく、天を貫く勢いの炎。キャンプファイヤーなど、小火に見える大きさだ。
「燃えてるねー」
恵はのんきなものだ。この距離ならば巻き込まれることはないと安心しているのだろう。駆けつけた教師の迅速な対応もあって、幸いけが人は出なかったのが救いだ。
「そうだ、あの子は?」
恵に言われて、ななみに買い物を頼んだことを思い出した。彼女が向かったのは、中庭の側の自販機。もしや巻き込まれているのでは…。
火柱はどんどん太くなり、すでにステージ全体を包み込んでいる。ななみがあの中にいるなら、もう助からない。消防の到着まで少なくともあと数分。消化に成功したとしても、出てくるのは黒焦げになったななみの遺体だ。
飲み物なんて買いに行かせなければ良かった。私の軽い頼み事のせいで、友人を失ってしまった。後悔してもしきれない。
けたたましいサイレンとともに到着した消防が、放水を始めた。あまりに大きな火柱に、消防隊員も面食らっている。絶望的だと分かっていながらも、ななみの無事を祈って、火が消えるのを待つ。
しかし、いくら待っても消えない。10分、20分。時計を見ると、もう放水開始から30分が経過しようとしていた。火は小さくなるどころか、水を吸ってさらに成長しているかのようだ。消防隊員の顔にも焦りが見え始める。
水での鎮火は無理だと判断し、消火剤に切り替えようとした時だった。
「ロッケンロール!」
どすのきいた女性の声が、どこからか響いてきた。
それを合図に、火柱が2倍の大きさに膨らんだ。




