半年経ったらそれはもう別人
男子三日会わざれば刮目して見よ、とは言うが、女子は半年見ないだけであまりに変わってしまうものだ。ななみは小学校時代から、嫌でも人目を引くルックスの持ち主だった。それが1年足らずの間に、人目を引くというレベルのものではなくなっていた。屋台のみんな、作業の手を止めてななみを見つめている。それはもう穴が開くほどに。
まるでななみの周りだけ時が止まっているかのようだ。しかし本人は見られることに慣れている様子で、残りのたこ焼きを頬張る。そしてまた一言。
「焼き方が甘いわ」
いたずらっぽく笑うななみの視線は、私をしっかりと捉えていた。
「橘さん…だよね?」
私の問いかけに、ななみは口元のソースを拭いながら頷いた。
「久しぶりやなあ、梓さん。いうても半年かそこらか。小学校卒業してからまだそんなに経ってへんし」
「なんでここにいるの」
「招待状もろてん」
ななみが鞄から取り出したのは、確かにわが校の文化祭の招待状だった。外部の学生が文化祭に参加するには、在校生の招待が必要なシステムだ。つまり、ななみにはこの学校に友達がいるということだ。私以外の友達が。
ななみが屋台のほうへ身を乗り出し、私に耳打ちした。
「なあ、まだ好きなんやろ?いやらしい漫画」
その声はさほど大きくは無かったが、みんながななみに注目しているせいで、文化祭の喧噪は一時的に止んでいた。周りに聞かれたのではないかと、焦って周囲を見渡す。
幸いにして言葉の内容までは聞こえていなかったようだ。しかし、ななみと親し気に話していることで、私まで周りの注目をすっかり集めてしまっている。
「その話、ここでしないで!」
「なんなん。中学入ってキャラ変えたん?」
「そういうわけじゃないけど!」
「ウチもまだ漫画描いてんねん。学校の図書室にも置いてもらってるんよ。司書さんに頼んだらオッケーしてもらえた。おかげで読者も増えて嬉しいわ」
なんて大胆なことをするのだ。自作のエロ漫画を図書室に置くなど、狂っているとしか思えない。
私たちの会話に興味を持った恵が、横からひょいと割り込んできた。
「なになに、何の話?漫画とか聞こえたけど、2人はオタク仲間とか?」
初対面の人間に対して、よくもまあそんな距離感で話せるものだ。
「そうそう、オタク仲間。それもちょっと、特別な感じのやつやねん」
「特別って…」
「余計な事言わないで」
恵は既に私の性癖を知っているが、必要以上に過去までさらけ出したくはない。それにこの会話を他のクラスメイトにも聞かれて、拡散されたらたまったものではないではないか。
「ウチは男の子が攻めのヒーローもんが好きで、梓さんは…」
ちょうど焼きあがったばかりのたこ焼きを、ななみの額に向けて投げつけた。
「あっつ!」
これでなんとか口封じには成功した。
「しばらく会わへんうちに、えらいバイオレンスになってもうて」
たこ焼きの直撃した部分を擦りながら、ななみは楽し気に笑っている。
「それで、橘さんは誰に招待されたの」
「梓さんも知ってるかなあ。真堂君っていう男の子なんやけど」
「えっ、真堂君が…?」




