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文化祭の食べ物はまずい

 

 文化祭の準備は滞りなく進んだ。ただ一つ、真堂との関係を除いて。

 

 買い出し途中での予期せぬ戦い以来、真堂との距離を出来るだけ離そうと心がけていた。しかし彼はヒーローで私は悪。つまりは討伐すべき対象だ。学校の中でいきなり刺されるような事はないにせよ、私を消すタイミングを虎視眈々と狙っているというのが、雰囲気から伝わってくる。その証拠に、私が真堂から離れても、微妙に距離を詰めてくることが多くなった。彼のほうから寄ってきてくれるなど、以前までなら大歓迎だったが、今はそうはいかない。屋台作りのために振るっている金槌が、いつ私の頭部めがけて振り下ろされるか分かったものではない。

 

 文化祭までの数週間、私は極度の緊張状態のまま過ごす羽目になった。もちろんそんな事を知らない恵は、「最近真堂君とよく喋ってるじゃん。なに?もしかしてもう付き合ってるとか?」と、はやし立ててくる。とんでもない。私は真堂をスライム攻めにしたし、彼は私の指を全部切り落とした関係だ。不純なんてレベルを超えている。

 

 そうして迎えた文化祭当日、最悪のトラブルが起きた。

 

 「ごめん梓!急で悪いんだけど、屋台の当番やってくれない?」

 

 他のクラスの出し物を見に行こうとしていたところを、販売担当の恵に呼び止められた。

 

 「なんで?当日の店番は私の仕事じゃないでしょ」

 

 私の担当は買い出しと店の設営だ。当日は何も仕事がないはずだった。 

 

 「当番の子から連絡があってさ。軽音部が中庭ステージでライブやるんだけど、メンバーが1人怪我しちゃったんだって。それで助っ人として当番の子が呼ばれたの」

 

 「で、1人足りなくなったから私に入れって?」

 

 「だって梓、暇そうだしさ。どうせそんなに見て回りたい出し物もないでしょ」

 

 確かに恵の言う通りだ。文化祭終了までの数時間を、適当にふらふらして過ごそうと考えていたところだった。中学生の作る屋台の料理のクオリティなど低いに決まっているし、金を出して食べようと言う気は起きない。実際、私のクラスのたこ焼きだって美味しくない。クラスに関西人がいれば焼き方の指南をしてもらえたかもしれないが、あいにくこのクラスには関東出身しかいなかった。

 

 「分かったよ。でも私だってたこ焼きとか作れないからね」

 

 「そんなの簡単だよ。この丸いところに流し込んで、クルクルすればいいだけ!」 

 

 その雑な作り方のせいで、ほぼ失敗作のような売り物が出来上がっているわけだが。

 

 私は恵からエプロンを受け取り、屋台の内側に立つ。たこ焼き器から立ち上る熱気に、一瞬で汗が噴き出した。9月といえどまだまだ残暑が厳しい。というか8月とほぼ変わらない。文化祭の開催時期は冬にすべきではないか。

 

 「そういえば梓は、結局友達呼んでないの?」

 

 「呼べるような友達なんていないって。小学生の時だって仲良かったのは…」

 

 生地を丸い型に流し込みながら、ななみの事を思い出した。

 

 性癖を巡って衝突したのちに仲良くなったが、小学校を卒業してからはすっかり疎遠だった。中学に上がったばかりの頃に、一度連絡を取ったくらいだ。呼べばななみは来てくれたのだろうか。

 

 「なんや下手くそなたこ焼きやなあ」

 

 恵が手渡したたこ焼きを食べて一言、客がそう言った。クオリティが低いのは承知しているが、真っ向からクレームを入れられるとさすがにむっと来る。

 

 カスハラはお断りだと言ってやろうかと、声の主のほうを見やった。

 

 「ウチが焼いたろか?梓さん」 

 

 クレーマーの正体。それは見間違いようのない美少女。橘ななみだった。


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