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スライムの役割といえば


 おもちゃ屋の引き戸が粉々に割れた。ワゴンに雑多に放り込まれた商品が、はじかれたように店外へと飛び出してくる。目の充血したサルの人形が、シンバルを叩きながら真堂へと突進した。その後ろをおもちゃの兵隊が行進していく様は、なんとも奇怪だ。

 

 しかし所詮は人形。束になっても戦力になるはずもない。真堂は一蹴りでそれらを吹き飛ばした。こんなのではダメだ。もっと使えそうなおもちゃは…。

 

 割れたガラスの破片が飛び散った店内に目を凝らした。プラスチックの缶に入ったスライムが、ころころと店の床を転がっている。これだ。

 

 私はその缶にありったけの邪念を送った。プラスチックが弾け、中から緑色のスライムがどろりと現れる。

 

 「あら、さすがいいものに目をつけるわね」

 

 クロエルが感心して手を叩く。

 

 邪念を浴びたスライムは瞬く間に巨大化し、商店街のアーケードを突き破った。そしてそのまま真堂に覆いかぶさろうとする。商店街の道幅は狭く、真堂には攻撃を躱せるだけのスペースがなかった。

 

 スライムは押し寄せる津波のごとく、真堂ごと商店街を飲み込んでしまった。古びたスナックも焼き鳥屋も、昔に閉店したらしいクリーニング屋まで全てを巻き込んでいく。しかしスライムには私の意思が宿っているので、その他のものには目もくれず、ぐちょぐちょと音を立てながら真堂の体に絡みついた。

 

 「うっ、なにこれ。本当にお前は趣味が悪いな!触手といいスライムといい、なんでぬるぬるしたものばっかり」

 

 「おやおや真堂君。人の趣味にダメ出しする余裕なんてあるの?」

 

 クロエルの言う通り、指がなくても邪念さえあれば魔法は使える。スライムの粘度は増していき、真堂の動きを完全に封じた。

 

 「まさか指を全部切り落とされるなんて思わなかった。でもしょうがないよね。真堂君はヒーロー。私はノクターン・ロゼ。真堂君の敵なんだから」

 

 武器の剣もスライムに飲み込まれ、もはやどこへ行ったのかも分からない。丸腰で四肢の自由を奪われた姿は、まさに私が憧れた囚われの美少年ヒーローそのものだ。この場は私の支配下に置かれた。さあ、指の仇もかねてのお楽しみといこうではないか。

 

 緑色のスライムから蒸気が発生し、色も徐々に赤みを帯びていく。

 

 「熱いでしょ?熱いよね真堂君。スライムの温度は今70度まで上がってる。でも大丈夫。皮膚が溶けたりする心配はないから。溶けるのはそっちじゃなくて、そのピチピチのヒーロースーツのほう」

 

 スライムの役割といえば服を溶かすことだ。少なくとも私はそう思っている。校庭での戦闘の際にも、彼のスーツの一部が触手の体液によって溶けていたことを思い出した。あの素材は伸縮性に優れている代わりに、酸性の液体には弱い作りだと私は見抜いていた。

 

 ものの数十秒で真堂のスーツは溶け始め、陶器のような肉体が徐々に露になった。首元より下を見るのは初めてだったが、やはり美しい。もっと。もっと溶かせ。

 

 私はスライムにありったけの邪念をぶつけた。


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