休み明けの緊張感
長いはずだった夏休みがもう明けた。1ヶ月と数日あったとは到底思えない。それだけ充実していたのかと問われれば、答えはイエスでもありノーでもある。というのも、クロエルの修行がお盆休みを除いて毎日行われたからだ。お盆は親戚の集まりがあるので勘弁してくれと頼むと、渋々といった感じで引き下がってくれたのが唯一の救いだった。実際は集まりに顔を出すことをせず、私は自室で久々の余暇を謳歌した。
だいたい親への言い訳も日に日に苦しくなっていた。早朝からクロエルに叩き起こされ、窓から飛び出して街へ繰り出す修行の毎日。昼頃には一度帰宅するのだが、朝早くからご飯も食べずにどこへ行っているのだと問い詰められたことがあった。正午あたりまで一度もリビングに降りてくることもない娘を心配する気持ちはわかる。しかし本当のことなど言えるはずもない。
悪の組織の幹部になって、少年ヒーローをいたぶりたい。そんな正直に言ったところで納得する親などこの世に存在しないだろう。なので私は行き先を聞かれるたびに、ラジオ体操だったり友達と朝の散歩だとか適当な言い訳をしてやりすごした。
修行に明け暮れた夏休みが終わり、2学期の初登校日。教室には妙な緊張感が満ちていた。久々に会う友達との会話は、少し気恥ずかしさを感じる。大胆なイメチェンを試みて髪をバッサリ切った子もいる。私は特になにも変わらず、表面が埃っぽくなった机にカバンを置いた。
「梓はなんも変わんないねえ。夏休みどうしてたの?」
2学期になって初めて会話を交わすことになったのは、やはり恵だった。
「別になにも」
「何もってことはないでしょ。遊びに誘っても全然来てくれないしさ。私毎週お出かけの提案したのに!」
恵には申し訳ないことをしたと思う。新しく出来たショッピングモールや映画館。テーマパークなど、恵は夏休みの間に何度も遊びに誘ってくれていた。しかしそのすべてを断らざるを得なかった。親への言い訳をするよりも、彼女の誘いを断るのは心苦しかった。
「実は彼氏が出来たとか…?だったら隠さないで言ってよ」
まだクーラーもろくにきいてない教室で、ニヤけた面の恵にまとわりつかれると暑苦しくてしょうがない。
「彼氏なんてできるわけないでしょ。私そういうの興味ないし」
「真堂君は?」
真堂の名前を出されると心が揺らいだ。それを悟られないように、できるだけ無表情を装う。
「なんでそこで真堂君がでてくるの。友達でもないし、ましてや彼氏なんて…」
恵の質問攻めから逃れようと体ごと背けた先に、ちょうど教室に入ってきた真堂と対面した。夏休み明け特有の、あの気恥ずかしさが一瞬2人の間に漂う。
「あっ…、久しぶり、だね?」
「うん、そうだね」
会話はそこで終わってしまった。思い返せば、夏休み期間中に唯一会ったクラスメイトが真堂だ。私がおばあさんを困らせていたところを、彼が助けにやってきた日だ。
1学期と同じ座席に座った真堂の背中は、少しだけ大きくなったような気がする。




