期待のホープ
契約書へのサインを終え、羽ペンをクロエルに返す。彼女は満足げに目を細めてそれを受け取り、抱きついてこいと言わんばかりに両手を広げた。
「宇羅未梓。これでキミもノクターン・ロゼの仲間入り!いやあ、めでたいね。今夜は一緒に飲んじゃう?」
「未成年なんで遠慮します」
「ノリ悪いわね。悪魔と契約したんだから飲酒くらいビビることないでしょ。どうせ警察に怒られたところで、その力を使ってちょちょいとやっつければいいんだから」
そういえば私にも力が付与されたらしいが、まだ実感がない。こういうのはもっと派手な演出があるものではないのか。例えばサインした瞬間に体が謎の光に包まれて、服装が悪の組織のものに変わるとか。
「なにつまらなそうな顔してるの?せっかく悪の組織に入ったんだから、もっと楽しそうにしなさいよ」
「いやなんか思ってたのと違うなー、と。服装もそのままだし、力が使えるっていう実感もないし。ほんとに私契約したんですよね?」
「もしかして梓ちゃん。ボンテージ着たかった?」
クロエルがボンテージの開いた胸元を強調するように、前かがみになる。思わず顔を埋めたくなるような豊満さだ。
「そういうわけじゃないんですけど、なにか変わったって実感欲しかったかなって。クロエルさんみたいに触手も出ないし」
試しに指先に意識を集中させて、出でよ触手と念じてみたが、なにも起こらない。
「そりゃキミはまだ下っ端だからね。これから修行が必要よ。でも私が断言しよう。梓ちゃんは間違いなく幹部クラスの中でも最強になれる!だって私初めてよ?こんな邪な感情に支配された子!」
実に不名誉だ。私はちょっと性的嗜好がおかしな所があるが、私以上に性癖がねじ曲がった人間なんてごまんといるはず。それなのに私が一番とはどういうことだ。
「まあ力の使い方はそのうち身につくよ。まずは実践あるのみ。疲れただろうから、今夜はこの辺にしときなさいね。また近いうちに会いましょう」
一方的に話を打ち切り、クロエルは寝室の窓から飛び去って行った。ボンテージの女が夜空を舞っていると通報されないだろうか。いや、されたとしても警察は信じないだろう。
私は急激に強い眠気に襲われ、片腕の溶けたパジャマのまま眠りについた。




