好条件のスカウト
「消えたデータを返してほしいんでしょ?しかし何がいいのか私にはさっぱり。尻を打たれて悶えるガキのどこに、そんなに興奮する要素があるのか」
「あなたには分からないの?恥じらいと痛みのダブルパンチに合っている時の表情。歯の隙間から漏れていた声が、ついに我慢できなくなってはっきりとした悲鳴に変わるあの瞬間。全てが最高じゃない!」
ボンテージ女に私の熱弁は刺さらなかったらしい。眉を引きつらせ、少し引いている様子だ。なぜこんな恰好で、いきなり人の部屋に不法侵入してくる輩に引かれないといけないのだ。
「というかまだあなたの名前聞いてませんよ。一体何者なんですか!」
「私はクロエル。闇夜に咲く大輪のバラ、ノクターン・ロゼの幹部よ」
「ちょっとカタカナが多くすぎて分かりませんでした。えっと、まずなんですって。ノクターン…?」
「ノクターン・ロゼ。キミたちの言葉でいうところの、悪の秘密結社とかその辺だと思ってくれればいい」
なるほど分かりやすい。触手やクレオパトラの呪いを体験したあとでは、悪の秘密結社の存在など別段驚くことでもない。しかしここまで痛いセンスむき出しのネーミングとは、秘密結社恐るべし。
「えっと、それであなたがノクターン・ロゼの…」
「クロエル。まあ一つよろしくね」
クロエルがブーツのまま私のベッドに上がり、見下す形で手を差し出してきた。昨日洗濯したばかりなのに、またシーツを洗わないといけないじゃないか。
「それで消えたデータを復活させてくれるって話ですけど。そもそもあなたが意図的に消したんですか」
「ええそうよ。私が消した」
クロエルの差し出した手を叩く。「いたっ!」
「なんてことしてくれるんですか!この悪魔!」
クロエルは私に叩かれた手を痛そうに擦っている。ボンテージを着ているやつの打たれ強さではない。
「私が悪魔ってよく分かったわね。まだそこまで話してないのに。あなた案外察しがいいのかしら」
「何を訳の分からないことを抜かしてるんですか。それよりもデータを復元してください。そしてそれが終わったらとっとと出て行ってもらえます?」
私の圧力に一瞬気圧された様子のクロエルだったが、顔を背けて深呼吸すると、何事も無かったかのように登場時の威厳を取り戻した。ボンテージに似合う煽情的なポージングと、妖艶な笑みをたたえて私に向き直る。
「私は嫌がらせをしに来たんじゃないのよ。宇羅未梓ちゃん。あなたをスカウトしに来たの」
「スカウト?」
「あなたには悪の組織に入る素質があるわ。ノクターン・ロゼの一員にならない?もちろん最初は下っ端だけど、あなたなら1年もあれば幹部クラスに昇進出来ると思うわ」
クロエルの言っている意味がまで分からない。なぜ私をノクターン・ロゼに勧誘するのか。それに素質があるとはどういうことだ。私は生まれてこの方、法律に触れるような悪事など一切働いてこなかった。せいぜい幼い頃に、向かいの家に植わっている花をもぎ取ってきたくらいだ。
クロエルは、私が当然イエスと答えると確信しているようで、余裕たっぷりの笑みを浮かべている。
「いや無理です」
「えっ?」
「だから入りませんって」
「あなた話聞いてなかったの?ノクターン・ロゼの幹部候補にしてあげるって言ってるのよ。こんな栄誉は他にないわ」
「大体幹部になったからなんなんですか。悪の組織って給料出るわけじゃないんでしょ?」
「もちろんお金は出ないわ。でもそれよりもっと素敵なものが与えられるの。そう、あなたが最も欲しているものがね」
クロエルが腰をかがめて私と目線を合わせた。大きく開いたボンテージの胸元に、思わず目が吸い寄せられる。
「ノクターン・ロゼはね。対少年ヒーロー特化型の組織なの。幹部になればたくさん見られるわよ。美少年たちのもがき苦しむ姿を。それに与えるのは苦しみだけじゃない。時にはあんな魔法やこんな道具を使って…」
クロエルの指先が割れ、中から触手が伸びてきた。触手が私の腕に絡みつくと、一瞬にしてパジャマが溶け、地肌が露になる。
「辱め。そして快楽を与えるの。それがノクターン・ロゼ。どう、興味が出てきたでしょ?」




