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猫化

 

 アルシアはすっかり勝ち誇った様子だ。

 

 「見事なまでの形勢逆転!数で負けても力で勝つ!」

 

 2人揃って猫の恰好をさせられたのは屈辱的だ。魔法少女であるななみはまだしも、猫耳としっぽの生えたヒーローなどあまりに間抜け。真堂のほうが、受けている辱しめの度合は大きいだろう。

 

 しかし所詮は見た目を変えられただけ。四肢の自由を奪われたわけでもなければ、気持ち悪い虫に集られているわけでもない。先ほどの状況と比べれば、なんてことはない。いくらでも抵抗のしようがある。

 

 「これで恥ずかしがって戦意喪失すると思ったん?とんだ誤算やな。ウチはなあ、可愛い恰好似合うねん!」

 

 アルシアに向けて魔法を放とうと、ステッキを構えた。両脇は本棚に囲まれているので、アルシアに逃げ場はない。

 

 「お座り」

 

 アルシアがそう言うと、途端に腕から力が抜けて、ステッキを取り落としてしまった。

 

 「な、なんやこれ。足が勝手に…」

 

 自分の意志とは関係なく、膝が曲がっていく。まるで犬がお座りしているとの同じ恰好になっていくのを止められない。

 

 「ほほっ、いい恰好ですねえ。私の能力を見くびってもらったら困りますよ。これでもノクターンロゼの幹部。何も絵に描いたものを具現化するだけじゃありません。こうやって相手を動物みたいにして、服従させることだって出来るんです!見事なお座り、眼福ですねえ」

 

 「お座りするんは犬やろ!」

 

 「細かいことはいいんですよ。猫でもお座りする子いますから」

 

 猫といえば、両足を体の下に仕舞いこんだ香箱座りをよくしているが、さすがに人間に同じ座り方をさせるのは無理だったのだろう。アルシアが本気で命じれば、ななみの体はそれに従うはずだが、関節が外れてしまいそうだ。ちょっとした雑技団のようになってしまいかねない。

 

 「う、動けへん…。そうや真堂君、絵の破壊を!」

 

 ななみに指示される前に、真堂は剣を構えてアルシアに向かっていた。ヒーロースーツに猫耳としっぽが生えていることに関して、真堂が恥ずかしがっている様子はない。気にしていないのか、気にしないようにしているのか。というか案外似合っている。

 

 「二度も同じ手は通じませんよ!」

 

 アルシアは背後から迫りくる真堂を振り返りもせず、新しい絵を描き上げた。

 

 途端に真堂は動きを止め、両手でお腹を抑えた。

 

 「どないしたん?大丈夫?」

 

 お座りの姿勢のまま、ななみは真堂の異変を気遣う。

 

 「どうです、辛いでしょう。お腹がペコペコで仕方がないですよね?」

 

 真堂の腹から、ぐううう、という音が響いてきた。腹痛ではなく空腹?戦闘時にいきなり空腹を訴えるとは、どういうことだ。ふざけているのかと思ったが、真堂の表情を見て、それが冗談ではないと悟った。頬は一気にくぼみ、まるで何日も断食しているような弱り方だ。

 

 「そんなお腹ペコペコのヒーローさんには、美味しいご飯をあげちゃいます。はい、どうぞ」

 

 アルシアが能力で具現化させたのは、キャットフードだった。ピンクのエサ皿に盛られたキャットフードを、真堂に差し出す。

 

 「召し上がれ」

 

 アルシアが言い終わるが早いか、真堂は顔を皿に突っ込んで、キャットフードをむさぼり始めた。ヒーロースーツが汚れるのも構わず、四つん這いで一心不乱にフードを食べている。そこにはもう、ヒーローとして以前に、人間としての尊厳がなかった。

 

 「やめてや真堂君。こんなんおかしいって。あんた人間やろ?キャットフードなんか食べたらあかんし、そんなん美味しいわけないやん…」

 

 ななみは昔、奈良公園の鹿せんべいをこっそり食べたことがあるが、全然美味しくなかった。キャットフードなんて余計に人間が食べられる味ではないはずだ。

 

 皿は一瞬で空になった。

 

 「お代わり欲しいですか?」

 

 アルシアに聞かれ、息を荒げて頷く真堂。

 

 「じゃあ、おねだりして下さい。真堂さん」

 

 「…おっ…お代わりを…」 

 

 「お代わりを?」

 

 「…ください」

 

 むふん、と鼻息を吐き出したアルシアは、空の皿にキャットフードを注いだ。満杯になった皿に、真堂はまた食らいつく。

 

 「ヒーローの餌付け完了。さて、お次は魔法少女と遊びましょうか」

  

  


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