表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/116

ななみキャット

 

 一歩、また一歩とアルシアに迫っていく2人。前門の魔法少女、後門のヒーロー。もう逃げ場などない。

 

 「観念して降参したらどうや」

 

 「ついさっき、虫が怖くて泣きながら降参したのは、どこの誰でしたっけ?」

 

 この状況でまだ挑発する余裕があるとは驚きだ。ななみはけん制の意味を込めて、アルシアの足元の床を魔法で焼いた。

 

 「ぎゃあ!こっ、殺す気ですか⁉」

 

 「なにを当たり前のこと聞いてんのよ。殺す気に決まってるやんか。あんたやってウチを殺そうとしてたやろ」

 

 真堂の助けがなければ、巨大カマキリに頭を食いちぎられていたところだ。こちらが本気で殺しにかかっても、文句を言われる筋合いはない。これは正当な報復である。

 

 「真堂君は手を出さんといてや。こいつはウチがトドメさすから」

 

 「気を付けなよ。まだ何か能力を隠してるかもしれない」

 

 「ようは絵を描かせへんかったらええんやろ。こいつの能力を封じるんは簡単や。もうネタは上がってる」

 

 ななみとアルシアの距離は、ついに1メートルほどまで近づいた。この距離なら、魔法を使うよりも顔面を蹴ったほうが深刻なダメージを与えられる気がするが、そこは魔法少女としての体面を保つとしよう。

 

 「なんか言い残すことは?」

 

 ステッキの先端に光が集まる。一点集中の攻撃を放つための準備だ。もう引き金に指はかかっている。あとはその指を引くだけという状態である。

 

 アルシアは最後まで憎まれ口を叩くのだろうか。それとも…。

 

 「す、すいませんでしたぁ!許してください、許してください!」

 

 突如地面に額をこすりつけての土下座。まさかの命乞いだ。悪の組織を騙るノクターンロゼが、聞いて呆れる。トレードマークの丸眼鏡は土下座の勢いで外れてしまっていた。

 

 「謝ったってあかんよ。ウチがさっき降参した時、あんたなにした?殺そうとしたやろ」

 

 「その節はまことに申し訳ございませんでした!」

 

 ステッキの光が増幅する。

 

 「なんで殺意高まってるんですか⁉こんなに謝ってるというのに!」 

 

 「ごめんで済んだら警察はいらんねん」

 

 「ひぃぃ!」

 

 アルシアはさらに体を折って丸くなった。全体的に楕円のようなシルエットになっている。体の下に隠しこまれた頭と両手は、もうななみからは見えない。土下座にしてはおかしな体勢だ。まるで、体の下に何かを隠しているような、そんな恰好である。

 

 アルシアの肩が小刻みに動く。体の下で手を動かしている?一体なにを…。

 

 「ふっふっふっ…、慢心はよくないですよ。私がタダで頭を下げると思いましたか!はーい、新作完成でーす!」

 

 顔を上げたアルシアは、喜色満面の笑みを浮かべていた。彼女は命乞いのために土下座をしていたのではなかった。体でスケッチブックを隠し、発射寸前の魔法を突き付けられた状態で、なんと絵を描いていたのだ。

 

 「私がなんの絵を描いたと思いますか?ヒントは、今私たちがいるコーナー。ここってどんな本が置いてありますかねえ?」 

 

 動物の写真集や飼育の手引き。ペット系インフルエンサーが出版している本など、このコーナーに置かれている本は、すべて動物関連だ。カマキリに続き、今度は巨大な犬でも出現させるつもりか。そうだとしても、相手が虫で無いなら対処はできる。魔法で吹き飛ばせばいいだけだ。真堂も相手の後ろに控えているので、2対1。圧倒的にこちらが有利である。

 

 「正解は、こちらです!」

 

 アルシアがスケッチブックを掲げた。そこに描かれているのは、ななみと真堂の姿。先ほどのように、猿ぐつわを付けられている様子はない。しかし実物の2人には無いものが、絵の中の2人には付け加えられていた。

 

 猫耳と猫のしっぽ、そして首輪だ。

 

 「猫ちゃんの写真見て思いついたんですよ。お二人ともかわいい顔してますし、猫コスプレ絶対似合うって」

 

 アルシアの能力が発動し、ななみと真堂はイラスト通りの格好にさせられた。猫耳はカチューシャではなく、本当に頭から生えている。脳みそと繋がっているらしく、ななみの動揺に呼応してピコピコと動いた。腰の下あたりからはしっぽが、これまた体から直接生えていた。引き抜こうとしても、皮膚が引っ張られて痛いだけだ。首輪には鈴がついており、ご丁寧にネームプレートまで提げられていた。たちばな、とひらがなで書かれている。

 

 真堂もまったく同じ恰好だ。中世的な顔立ちをしているので、猫の恰好は似合っているが、この場においてそれは何の褒め言葉にもならない。

 

 「あっはは!2人とも可愛いですねえ。2人、いや2匹って呼んだほうがいいですか?」

  

 アルシアは落ちた眼鏡を拾い上げて、耳障りな声で笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ