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能力の弱点

 

 虫に頭を食いちぎられて終わる人生なんて、想像もしていなかった。事故にもあわず、大した病気にも罹らず、平穏に生きて寿命で死ぬ。なんとなくそんな人生を想像していた。

 

 だがななみの人生設計は、大口を開けて迫ってくるカマキリによって、今まさに終焉を迎えようとしていた。カマキリの顎の力は強い。カエルやトカゲの皮膚を切り裂けるだけの力があるという。爬虫類よりも皮膚が固い人間でさえも、嚙まれたら血が出るくらいだ。それはあくまで普通サイズのカマキリの話。ななみを捉えて、食いちぎろうとしているのは、3メートル級のモンスターカマキリ。美少女と誉めそやされてきたななみの顔は、カマキリの口の中でグロテスクな肉の塊と化す運命だ。

 

 魔法少女になんてならなければ良かった。この時ほど、自分の選択を後悔したことはない。今から許しを請うたところで、アルシアは止めてくれないだろう。降参したというのに、それをまったく聞き入れる素振りすら無かった相手だ。そもそも猿ぐつわをされているので、命乞いの言葉すら発することも出来ない。

 

 絶体絶命。声にならないくぐもった叫びを上げていた時だった。

 

 カマキリが突如として消滅した。

 

 「なっ、なんで⁉私のカマキリが!」 

 

 アルシアが狼狽え、丸眼鏡がずり落ちる。

 

 カマキリの拘束から解放されたななみは、手錠と猿ぐつわはそのままで、地面に倒れた。 

 

 「んぅ…ん…」

 

 アルシアのスケッチブックのページが、真っ二つに切り裂かれている。手で裂いたのでは、あそこまで綺麗にならない。なにか鋭い刃物で一刀両断したような…。

 

 「ちょっと目を離したらこれだ。なんなの、この状況」 

 

 ヒーロー姿に変身した真堂が、剣でななみの拘束を解いてくれた。

 

 「真堂君があのカマキリ倒したん?」

 

 涎まみれになった猿ぐつわを見られるのは恥ずかしいので、そっと衣装の中に仕舞いこんだ。

 

 「あいつの能力って、絵に描いたものを具現化するんだろ。だったら絵ごと破壊すればいいと思って、カマキリの絵を斬ってみたら、やっぱり消えたよ」

 

 「くうぅ…、まさかこんなに早く看破されるとは!あなたの情報も聞いてますよ。確か真堂さん、でしたっけ?橘さんの同僚の。なかなかの冷静な洞察力。敵ながらあっぱれですよ」

 

 そうか。案外アルシアの能力は万能ではないのだ。確かに描いたものを具現化するというのは、ほぼ無敵の能力に思えたが、根本から絶ってしまえばいいのだ。アルシアの描いた絵を破壊する。紙切れ一枚を破きさえすれば、勝てる。一気に戦況が変わってきた。今度こそ勝てる。ななみはそう確信した。

 

 仲間がカマキリに襲われ、絶体絶命のあの状況。普通ならななみを助けようと相手に切りかかるところだが、真堂の冷静さは大したものだ。能力の源を絶つという判断を瞬時に下せたのは、彼の他人の命を軽んじる性質ゆえのものである。

 

 「ほな続きといこか。散々気持ち悪い目に遭わせてくれたなあ?さすがに許せへんわ」

 

 ステッキを握る手に、折れそうなほど力が入る。クロエルに戦利品として魔法のステッキを奪われたが、ソルガムナイツ営業担当の宮木に言えば、すぐに新品を支給してもらえたので、もしまた壊しても構わないだろう。

 

 「二対一は卑怯でしょ!それでもあんたらヒーローですか⁉」

 

 「正義に卑怯もなんもないねん。悪を滅ぼすためやったら、そこにルールなんて存在せえへん。勝ったほうが勝ちや」

 

 「あなた悪役のほうが向いてますよ」

 

 「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 アルシアはじりじりと後退した。逃げ道を探しているのか、あたりに目線を配っている。

 

 「退散!」と叫び、アルシアは本棚の間に消えた。

 

 「こら待たんかい!真堂君、挟み撃ちや。ウチはそっちから行くから、反対から回って」

 

 2人で追い詰めれば、もう逃げ場はない。ななみの魔法と真堂の斬撃でフィニッシュだ。

 

 アルシアが逃げ込んだ先は、動物の飼育書や写真集が置かれているコーナーだった。先ほどの攻撃で本棚が崩れており、足の踏み場が少ない。

 

 「追い詰めたで。さあ覚悟しいや」

 

 反対側では真堂が剣を構えている。虫攻めと辱しめ受けた分、きっちり仕返しをしてやろう。

 

 


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