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罠の可能性

 

 てっきり晩御飯前に解散だと思っていたので、梓からの誘いがあったのは意外だった。どこか行きたい店でもあるのだろうか。

 

 「別にええよ、時間あるし。そんでどこ行くん?」

 

 「えっと、ちょっと待って。多分こっち…、いや、あっちか」

 

 スマホで地図アプリを開き、その場でくるくると回転している。場所が分からないということは、梓も初めて行く店なのだろう。「こっちだ」と梓が指さした方向に向かって、2人で歩き出そうとした。

 

 梓がななみの腕を掴んだ。

 

 「どないしたん、やっぱり方向間違ってた?」

 

 「もし忙しいなら、無理して行かなくてもいいよ。期末試験もあるし、勉強も忙しいでしょ」

 

 自分から誘っておいて変な事を言い出すものだ。こっちが乗り気なのだから、何も問題はないのに。

 

 「勉強くらいいつでも出来るし、かまへんよ。せっかく一緒におるんやから、時間いっぱい遊ぼうや」

 

 梓の瞳が妙に泳いでいる。なにかやましいことでもあるのか。本当は来てほしくない、そんな感情が伝わってくるような気がした。このまま帰ってしまえば、何もトラブルは起きずに済むだろう。しかしななみは梓の誘いに乗ることにした。たとえ問題が発生したとしても、魔法でなんとかなる。

 

 

 しばらく歩いて到着したのは、ビルの地下にある小さなライブハウスだった。やる気のなさそうな受付にチケット代を払い、ドリンクを購入して席に着く。梓に音楽の趣味があるとは知らなかった。こういうところで演奏するのは売れないインディーズのバンドがほとんどだ。インディーズといえば聞こえはいいが、要するに素人。金を払ってまで聞く価値のある演奏かどうか怪しいものだ。ななみは過去に一度だけ、もう少し規模の大きなライブハウスに行ったことがあるが、演奏は聞くに堪えないものだった。

 

 「目当てのバンドとかあんの?」

 

 「いやー、そういうわけじゃ…」

 

 ここに来てからというもの、梓の歯切れが悪い。怪しい。確実に何か隠し事をしている。まあそれもいずれ分かることだ。今は演奏が始まるのを待とう。

 

 最初に出てきたのは、大学生で構成されたバンドだった。思いのほか悪くない。ボーカルの女の子は、ゆるふわ系の見た目とは裏腹にドスの聞いた声が、激しいロック調の曲にマッチしている。ギターの演奏技術もなかなかのもので、これならチケット代を払う価値はあるかな、と思う。

 

 3組ほどの出番が終わったあと、次に出てきた女を見て、ななみは飲んでいたドリンクを吹き出した。

 

 「ロックンロール!」と叫ぶその女は、文化祭の日にステージを破壊した、ノクターンロゼの一員だった。

 

 「ちょっとあんた、なんで生きてるん⁉ウチと戦って、確かに跡形もなく消したはずやのに」

 

 ななみは立ち上がり、ステージに上がった。いつの間にか周りの客はいなくなっており、客席にはななみと梓の2人きりだ。

 

 「ロックンロール!」

 

 「ロックンロールやないねん。話通じひんの?」

 

 ダメだ。何を言っても、ロックンロールとしか返ってこない。まったく会話が成立しないではないか。一度倒した相手なので、戦略は分かり切っている。もう一度倒すことは容易だ。

 

 ななみは席に戻り、鞄からステッキを取り出した。

 

 「あの時のようにはいかないわよ。魔法少女」

 

 それまでロック女の陰に隠れていたドラマーが、ステッキをくるくる回しながら前に躍り出てきた。いつもの服装ではないのですぐには気付かなかったが、栗色の髪と艶めかしい唇。素材の良さを殺している厚めの化粧。

 

 敵意むき出しの視線を向けてきたのは、クロエルだった。

 


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