第42話 完璧は不条理であるという証明だ
全体的に無機質で真っ黒な空間は、白いペンキで細いチェック模様が描かれた部屋だった。ここは、沢山のキャンバスを飾られた。美術館だろうか。
苦しそうな顔をした人が凸凹に貼り付けられている。絵ではない。物体が不思議な力でキャンバスに閉じ込められているのだ。
真っ黒なマントを身に着けたピエロのお面をつけた男が1枚のキャンバスの顔に指でなぞる。彼の頬にキスをした。
「あー……君は本当に僕を楽しませてくれたよ。まさか、あそこまでしてくれるとはね……」
正体不明の男は、沢山のキャンバスを眺め、ワインを嗜む。闇深い空間から、ハクトウワシが大きな翼を広げて飛んでくる。くちばしには、大きなキャンバスをひもにくくって運んでいた。
「おやおや、また私の作品が増えるのかなぁ。楽しみが増えたね。次はどんな人かな」
キャンバスに飾られた絵は、描かれたものではない。一人の人間が閉じ込められたものだ。そして、彼が今受け取ったキャンバスの中は、生きたまま、中島 颯真が閉じ込められていた。
体はグネグネにねじ曲がり四角い形にまとめられ、顔が歪む。肌の色は白いペンキで塗られたようだ。だが、ミイラになったわけじゃない。
キャンバスの中では、体も動かすことも、声を出すこともできない。もちろん、目を開けることもない。植物人間のまま、生き続けている。死んでいない。意識も心もないのだ。ねじ曲がったまま心臓だけ動いている。絵画のように次々と飾られていく。
大きな獲物がやってきたと正体不明の男は、興奮して、ピエロの仮面を外す。黒く大きなマントを翻した。
「君がダークワーカーの男の子だね。まさか、閻魔大王と天照大御神さえも消し去ってしまうとは世界を変えるくらいの恐れ多い存在だ。いい仕事をしてくれたよ。君は本当に優秀だ。秀才だ。一体どうやったら、こうなるのだろう。そうだ、いい成績を残したのだ。称号を与えよう。永遠という称号を。ここで、僕と生き続けるのだ。ねぇ、次は僕を消すとは言わないよねぇ。全知全能の神であるこのゼウス様を消すなんてことしたら、この全世界は滅亡だよ。ハハハ……そうならないように僕は君を一生見張っておく。コレクションにしてあげるよ。ずっと、ずーーーーっと僕と一生、一緒に過ごすだ。この無限に続く優秀人間美術館でねぇ!! ハハハハハ―――」
ゼウスと呼ばれる不老不死であり、全知全能の神は、何の返答もできない中島 颯真のキャンバスを持ち、大声であざ笑う。
中島 颯真というダークワーカーは、生きたまま埋葬されてしまった。永遠に出ることはできない。誰も助けにくることはない
神様を消すという行為は、触れてはならない禁忌を犯してしまった。
「人間は完璧じゃなくていい。欠けたままに飾っての完成だ。これ以上は脅威だからな……」
ゼウスは丁寧に中島 颯真のキャンバスを壁に飾り、マントを翻し、歩いた。
黒い羽根を落としたハクトウワシは天高く真っ暗な闇の中に飛んでいく。
何百人、何千人と並べられたキャンバスが、ところ狭しと並ぶ異次元空間に存在するこの美術館はゼウスという神が存在する限り、終わりを知らない。
隕石が飛び交う宇宙の中で、灼熱の壮大な太陽が突如として爆発してしまう。
その爆発に地球は飲み込まれて、木っ端みじんに消滅した。
破片が散らばる宇宙は日々変化している。
果たして、この地球というものがない世界にも神は存在し得るのか。
それは誰も知らない。
――― 完 ―――




