第40話 まさかの忽然と消える
地獄では鉄板のマグマ温泉がある地獄の門のエリアに移動したコウモリの紫苑は、ふとあることを思いついた。審判の間では小鬼たちが巻き込まれるほどの戦いが未だに繰り広げられている。このままにしていいのかと考える。誰がここを助けるのか、そう、ダークワーカーという仕事を担っている中島 颯真が行かずとしてなんとやらと、クルクルと旋回した。
「颯真、颯真。おいら、良いこと思いついちゃったんだけどさ」
「は? まさか。俺をそのままの年齢で戻してくれるってことか。というか、時間の感覚が違うっていう話だけど、タイムスリップとかできないわけ?」
「あー、そういう話? できなくはないんだけど、おいらにはそんな力持ち合わせてないんだよね。できるのって、閻魔大王様とかすごい偉い人だから」
「そういうことね。俺は閻魔大王に直接お願いしなくちゃいけないってことか。つまりは、この暴れまくってる二人をとめなくちゃいけないってことよね」
腕を組んで、バチバチと魔力が飛び交う空間を見つめた。あっちは雷、こっちは炎でひっちゃかめっちゃかの状態になっていた。紫苑が説明する間もなく、ひらめいたことは颯真に言われてしまう。
「そ、そうだとも。今すぐ、あの暴れん坊をとめようではないか」
「え、誰? 何、将軍にでもなった?」
「う、ううん。全然。そんなつもりもない紫苑将軍ですけど」
「誰が将軍だよ。小さな脳みそのくせに。人間なめるなよ!」
「なめるとうまいのか? 試してみようかな」
「それは、違う違う。例えだ、例え。まったく、本当になめるやつがどこにいるんだよ」
いつの間にか、腕のそばまで飛んできていた紫苑は、本当に気になって颯真の腕をなめてみた。汗臭い匂いで味は何もしなかった。おいしくもなんともない。
「人間って、おいしくないんだな」
「悪かったな。おいしくなくて……もしかしたら、女の人だったらおいしかったかもしれないな。ごめんな、俺で!」
「いえ、大丈夫です!」
「は? キャッシュレス対応の店を探すCMかよ? 急に展開早すぎるんだよ。ちくしょー……てか、そんなことより早くしないとまずいんじゃないの。審判の間が燃え広がって、茶番劇みたいになってるぞ」
「あーあー、こんなところで油売ってる場合じゃなかった。ほら、粉をまくからどうにかしろって」
突然の紫苑は、きらきらと透明な粉を颯真の体に振りまいた。無意識のうちに体が勝手に動いてしまい、いつもの仕事を思い出す。
緊張感が増し、さっきまで荒れ狂う二人の間に透明の姿のまま、立ちふさがった。二人は、見えない壁がそこにはあると、何かを感じた。気づいたときは、もう閻魔大王も天照大御神も一瞬にして地面に横たわっていた。もう動くことはない。
それぞれの体すべてを動かすことはもうないだろう。砂のように体が消えていく。
地獄の審判の間を裁く閻魔大王に天界を制する天照大御神。ダークワーカーの中島 颯真の手によって、命を奪われた。手のひらサイズの長くきらりと輝く糸で首を切られていた。コウモリの紫苑は予想外の展開に開いた口がふさがらなかった。
「は、は、は、颯真。一体何をしたのさ」
「ハハハ、俺もついつい、いつもの仕事だと思ってさ。やっちまったわ。これって、夢だよね?」
「おいら、どうなっても知らないからねぇ!」
怖くなった紫苑は、地獄の空を高く高く飛んで逃げて行った。地獄の審判の間に所属する小鬼たちは、閻魔大王がいなくなったことがうれしくて思わず颯真を胴上げし始めた。どれだけここの仕事がきつかったのかと逆に心配してしまう。
「いや、あの、俺、野球監督じゃないから! 大丈夫だーーーよーーぉおおぉお」
「「「わっしょい、わっしょい」」」
心中穏やかでいられない中での胴上げに複雑な顔をした颯真だ。しばらく、小鬼たちに喜ばれる時間を作ろうかなと鼻高々になってしまう。
罪人たちの行列がつながったまま、審判の間は静寂を保っていた。




