第33話 ここは本当に地獄なのか。
颯真が通う学校の校舎では、いつもの時間が流れていた。ざわつく中で藤原 朱がソワソワと体を震わせていた。廊下を右往左往して落ち着きがない。
「は? ここで何してるんだよ」
寝癖をぴょんとはねたまま登校してきた馬場 悠太が藤原 朱の挙動不審な動きを見て、気になった。
「え? あー、馬場くんか。い、いや、馬場なら知ってるんじゃないかな……颯真くんさ、休みすぎじゃない?」
「あー、 颯真ね。ただのサボりじゃなねぇの?」
「嘘でしょう。あの性格でサボる?」
「サボる人じゃないって……土日もバイトで忙しくしててさ。突然、学校来なくなるっておかしくない? バイト先も行ってみたけど全然来てないって話だよ」
「……へぇー。お前、 颯真のこと好きなの?」
「あのね! 今、そんな話していないでしょう?」
「てっきり、 颯真の推し活しているのかと思ったぜ」
馬場 悠太は、教室の中に入り、自分の席にバッグを置いて、ため息をつきつつ、椅子に座った。クラスメイトたちは始業チャイムが鳴る前の自由タイムに雑談で盛り上がっている。藤原 朱は、馬場 悠太では埒が明かないと別な人に颯真のことを聞きに行くが、誰も彼の近況を知らない。休んでいる理由も知らない。
「何でみんなから慕われてるはずの颯真くんのこと、知らないの。興味ないのかなぁ。みんな、本当に薄情だなぁ!」
失望する藤原 朱はHRが終わったら担任の先生に聞いてみようと決意する。なんでそこまで彼を追いかけているのかわからない。でも今は追いかけなくてはいけない気がして、終始落ち着かなかった。
颯真が学校を休み始めてから2週間が経っていた。 颯真は今まで皆勤賞であったため、藤原 朱は信じられなかった。毎日、学校やバイトにも熱心に行動していて、突然いなくなるのは不思議だった。そして誰も心配すらしない。
今や、不登校になるのも当たり前な時代だからか、他人のことは気にしないのか。面倒ごとに巻き込まれたくないのか。友達という絆は幻想なのかもしれない。
藤原 朱は担任の先生にも、颯真のことはわからないと言われてしまう。さらに個人情報の保護の観点で住所は教えられないと言う話だ。 藤原 朱は、無機質な愛のない対応にイラっとした気分になる。電話は何度もかけているが、スマホの電源が入っていないらしい。先生も半ば諦めている。
――― 一方、その頃、地獄にいる中島 颯真は
「あー、案外いいねぇ。これ!」
地獄の門から滑り落ちた中島 颯真は、紫苑の案内で窯の中にたまったマグマの中に入っていた。霊体がその中に入ると人間界の温泉と同じで温かく気持ちが洗われるようだ。見た目は熱くてやけどしそうだ。
「だろう? 気持ちいいんだよ。これが。おいらも時々入りに来たいんだけど、閻魔様に怒られちゃうからね。ここにいると時間の感覚忘れちゃうからさー」
コウモリである紫苑も一緒にマグマ温泉に浸かっていた。温かくて気持ちがよい。癒されてしまう。
「このままゆったりしていたいもんだぜ、マジで」
「颯真は四六時中忙しくしていたもんな。そりゃ、そうだ」
監視役の紫苑でさえも、颯真のしていることが大変だと感じていた。閻魔大王はそれを知ってか知らずかわからない。
「戻りたくねぇーーーー!」
「それは無理だぁーーーー」
叫びながら、結局まったりマグマ温泉に浸かる2人だった。慌ただしく動く小鬼たち、バサッと翼をおおきく広げて飛んでいくカラスがいた。
ぼんやりと紫色に広がった空には細い三日月が照り出していた。




