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ダークワーカー ー影の陰謀ー  作者: 餅月 響子


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第25話 本当は無くてもいいモノを見ているかもしれない

一戸建ての古い家に住む高校の日本史担当の教師の荒納 篤史(あらのう あつし)は、ゴミ屋敷に近い状態の部屋で過ごしていた。昼間だというのに部屋の中は真っ暗な状態で、屋根裏か出てきたネズミが居間の中をウロウロするくらいだった。


 テレビ画面には、競馬中継を録画した番組とスマホの競馬予想のアプリ、床には新聞は四つ折りにして畳んであった。


 天井の梁に透明な状態の颯真とコウモリの紫苑は、ターゲットである荒納 篤史をじっと眺めていた。颯真は、左手指の親指と人差し指でパチンと鳴らした。


 部屋の中が真っ白な空間になり、川のせせらぎの音が聞こえてきた。


「な、何なんだ。ここは!! 俺の楽しみが……あとちょっとでゴールだったのに」


 手元にあったスマホさえも無い異空間に荒納 篤史は、首をぐったりとうなだれた。意気消沈して、四つん這いに崩れた。まるで一生の終わりのような仕草だ。


「……いつまでそうしているつもりですか」


 低い声でボソッと男の声が聞こえた。


「は?! お、お前か。俺をここに連れて来たのは!?」


 ぐるぐる回りながら、声のする方へと体を向けるが、どこにもいない。そう、それは透明になって隠れている颯真の声だ。ここで正体がばれてしまっては危険であると判断した。同じ学校に通う身として妥当な判断だった。


「……だとしたら、どうするんです?」

「早く、元に戻せ。今すぐにだ。あの、ゴールを見なければ、俺は死んだようなものだ! 急いで戻すんだ!!!」


 感情的になる荒納 篤史に颯真は呆れて、ため息が出る。横にいたコウモリの紫苑は天井に逆さまになって休憩していた。ほぼ、人任せてる状態に颯真は苛立ちを隠せない。ブンッと腕を振るがよけられた。そうしながらも、続けて話し出す。


「何の意味があると言うんですか。荒納さん。それは、録画番組ですよね? しかもスマホアプリに映る画面は、スクリーンショットであたかも今リアルタイムで行われているかのように操作しているだけ。それのどこが面白いんですか。人との関わりを避けて、何をしてるんですか?」


「……なんで、夢から醒ますようなことをするんだよ! 俺の唯一の楽しみを奪うつもりか! 誰にも迷惑かけてないだろ!! 何がだめだと言うんだ! お前ーーーー姿を現せ。正々堂々と話せ!! お前こそ、卑怯だぞ」


 見ず知らずの声に本気で対応する荒納 篤史の心をかき乱した。本性を現したようだ。


「それは、できません。姿は出せないんです」

「は?! 何を言ってるんだか。そうやって、俺の楽しみ奪いやがって、ちくしょーーーー」


 何もない空中に向かって荒納 篤史はキックやパンチを繰り出す。透明になっている颯真はもちろん、当たることはない。っと思ったら、不意に避けようとして腰に荒納 篤史の足が当たってしまい、無様な格好になってしまった。


「当たった?」

 足を地面に戻すと当たった感触がまだ残っていた。


「いたたたた……」


 腰からお尻にかけてダメージを食らう颯真は、まさかの出来事に涙が出そうになる。


「ハハハ……颯真が無様~。プププ」


 天井で休憩していた紫苑が笑い出す。颯真は、込み上げてくる怒りが抑えられずに痛みを忘れて、大きくジャンプした。


「紫苑ーーーーー!! ふざけるんじゃねぇぞ。さぼるんじゃねぇ」

「あーーー、ほらほら。見てみて。ターゲットが見てるよ。おいらは邪魔しないようにここにいるだけやい!」

「お前なぁ!?」


 颯真は本来やるべきことを忘れて、紫苑の首根っこをつかんで飛べなくさせた。


「やめろやめろ! 苦しいだろうが!? 閻魔様に言いつけてやるぞ」

「は? そんなことしたらどうなるか覚えておけよ!?」


 身内の喧嘩に下で天井を眺めていた荒納 篤史は、ぽかんした顔をしていた。声だけでなく、何故か透明になる力が失われていて、すべて見られていた。


「颯真!! やばいやばい。見ろよ。こっち見てるから。あーーー、透明の力失っているし、お前、バカやってるじゃん! おいらのせいじゃないからなぁ!?」

 

 颯真の手から離れるとバサバサと旋回して慌てふためく紫苑。荒納 篤史は、声の主の本当の姿を目撃して、あっけにとられていた。


「……お前、中島 颯真じゃないのか? 2年3組の」


 颯真は、ごくりと唾を飲みこみ、警戒する。姿がバレてしまったと諦めた颯真は身に着けていた黒いマスクを外した。


「あー……バレてしまいましたね。荒納 篤史先生」


 両手を上げて、まるで逮捕させられるかのような態度を取った。銃口は向けられていない。犯人になった気分だった。


「な、なんで、こんな時間にこんなところで?! そもそもここはどこなんだ。お前は一体何者なんだ?」


「……そう、今は丑の刻参りの午前2時。こんなところって先生のご自宅です。誰と言いましても、俺は中島 颯真です。それ以下でもそれ以上でもありませんよ」


 そう言うと、荒納 篤史の横を通り過ぎ、耳元で指パッチンをして、空間を捻じ曲げた。白かった空間が一気に元の現実世界へと引き戻されたが、さっきまで夢中になっていたスマホとテレビはどこにも無くなっていた。


 目を開けてすぐに入って来たのは仏壇に飾られたご先祖様と父母の写真。さらに横の棚には離婚した妻と小学生の長女との思い出の写真が飾られていた。夏休みに初めて行ったキャンプの瞬間を撮ったものだ。


 「俺は……一体何をしていたんだ。本当に大事なもの。失ってはいけないものを粗末して……。ギャンブルに走るなんて……」

 

 写真立てをぎゅっと握りしめ、涙があふれんばかりにしたたり落ちた。今している行動を一度手放さないと見えてこないもの。


 失ったときにしか気づかない本当に大切なもの。当たり前にずっとやり過ごしては気づかない。


「大事にしなきゃいけないことあるんだよな……」


 荒納 篤史は、残っていた競馬新聞をゴミ箱に捨てて、固定電話からある人に電話を掛けた。誰かと会話するのは何年ぶりだっただろうか―――


 人と関わることを避けていた。仕事である学校で日本史を教える際も感情込めず、淡々とやり過ごすだけ。気持ちは一切込めない。そんなやり方で評判も悪くなり、職員室でも誰も話しかけてこなくなる。集団として中に入っていても透明人間のように1日やり過ごす彼は、常に孤独であった。心を救ってくれるのはギャンブルというお金目的のものしか生きがいを得られなかった。沼にハマって誰も助けることもできない。家族に見捨てられて、寂しさからギャンブルに飽き足らず、学校の集金袋にも手を出した。このお金があれば、借金返済に充てられる。今の自分を救ってくれるお金がここにあると錯覚する。


 もちろんそれは罪深いもので、もう教師という仕事はできなくなった。業務上横領罪で懲役10年の刑となる。


 ギャンブルに走る前に誰かと会話するのが大事だと生徒から学んだのだった。



****


「まーた顔見られたじゃんかー。どうするんだよ」

「大丈夫だって。指鳴らしたから」

「え? 指鳴らして忘れることできるの?」

「さぁ?」


 住宅街を歩く颯真にコウモリの紫苑は頭の上を旋回する。しばらく沈黙が続く。


「おいら、知ーらない。お前の耳、閻魔様にまた取られるぞ」

「げっ?! 嘘だろ。んなわけないだろ。ちゃんと成果出してるじゃねぇか。気持ちを入れ替えただろ。あの先生」

「……さぁ?」

 

 颯真は、下唇を噛んで不満な顔をした。意味もなく、紫苑の後を追いかけ回して羽根をむしり取ろうした。


「やめろって。おいらの羽根は触れるとやけどすんだぞーーー」

「どれ、貸してみーー」

「やだーーー、やめろーーー」


 2人の戯れは夕日が沈む頃まで続いた。からすがカァと鳴いて飛び立っていった。

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