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タビス閑話集  作者: オオオカ エピ
十三章名無しの王女
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□月星暦一五四三年三月〜〈オレの女神〉セル・ハルスの独白(前)

◯セル・ハルスの独白


 オレは採掘権のことしか考えていなかった。それさえ手にできれは何とかなるのだと、本気で思っていたんだ。


 商会を訪ね、話を持ち出した時、親方ことワーカーさんは意外という顔をした。


 オレが何も分かっていないことなんて、お見通しだったんだろう。

 お前には無理だと思ったに違いない。

 門前払いでは無く、それでも親方は話を聞いてくれる体勢をとってくれた。


 そいうところが、親方が慕われている一端だろう。



 親方は当初サラのことを訝しんだ。

 当然だ。彼女はこんな所に来るような人じゃない。


 お世辞にも上等とは言えない装いでも目を引く、浮世離れした美しい顔。

 隠しきれない気品のらしきものが滲み出ている。

 時折ちらりと見せる気迫のようなものには圧倒さえする。

 

 親方との話は、いつのまにかサラが話の主導権を握り、話を聞き出していた。


 そしてオレは現実を突きつけられた。


 とてもじゃない金額を突きつけられ、頭が真っ白になった。


 今はまだ机上の計画でしかない事業に、何の実績の無い自分が貸してもらえるような金額では無い。


「大丈夫よ」


 サラは断言し、破格の条件で本当に金は貸し出されることになった。


 サラが訳ありの女性なのは何となく伺えた。

 きっと本来なら、見ることさえかなわない世界に住むような人なのだろうことは想像に難くない。


 長い間月星では色々あった。

 安定したのは王様が変わってからだ。

 王様が一つのの月星を掲げてから、生まれを詮索するのは何となく禁忌タブーとなっている。


 たぶん、彼女の事情はそこに関わってくる。


 サラという名だって本名ではないかも知れない。


 身分証明書の名前は確かにサラとなっていたのはちらりと見えたが、神官が驚いていた「裏側」は頑なに見せてくれなかった。


 事情を聞いてしまえば、霞のように目の前からいなくなってしまう確信があった。


 だから、聞かないと誓った。

 オレはサラと居たかった。



 金を借りた翌日、きっちり耳を揃えて三万セレナを持っていくと、さすがに親方は驚いていたが約束通り話を進めてくれた。


 サラと親方は諸々の条件を確かめ合い、話を煮詰めていった。


 オレにも確認してくるが、正直途中からはついて行けてなかったと思う。


 親方はきちんと契約書を作成してくれ、翌日から仕事に携わらせてくれた。



「それにしてもセル、お前、すんげぇひとを見つけてきたなぁ」


 サラが席を外した短い間に、親方がオレに囁いた。


「絶対手放すなよ。彼女はお前の幸運の女神だ」


 採掘権だけでなく、その他のものにまで目を向けて交渉してきたのは、サラが初めてだたっのだそうだ。


 その時点で協力してやろうという気になっていたのだと親方は言う。


「もちろんです!」


 塩湖で初めてあった時、風になびく青みがかった砂色髪を手のひらで押さえながら振り返ったサラに、オレは女神を見たのだと思った。


 こんなに美しい女性に会ったのは初めてだった。


 姿絵の女神(セレスティエル)さまとは全然違うけど、女神が舞い降りたとしか思えなかった。


 リメールまでの道中、オレ達は色々な話をした。


 サラがオレの話を楽しそうに聞いてくれているだけで、舞い上がりそうだった。


 サラは好奇心旺盛で、博識だった。


 リメールに着く頃には、もうオレはサラが大好きだった。


 すでに二回告白して、二回ともはぐらかされているけど、うっかりしてしまったキスも無かったことにされたけど、こんなに協力してくれてるのだから、脈はあるのだと思ってる。


 

 

 当初親方は店を畳むと言っていたんだ。


 奥さんを亡くし、子どもたちも自立した親方は、高齢の両親を看ながら働いてる妹夫婦の農場に引越すからもう店は要らないのだそうだ。


 それをサラの機転で、親方の店は終わらせるけど、名前を変えて殆どそのまま引き継ぐような形までに持って行ってくれた。


 ただし、従業員はほぼ総入れ替えになる。その為の引き継ぎ要員を、神殿から斡旋してもらうなんて発想はオレには無かった。



 神殿に子供を捨てる親がいることは知っていた。

 身寄りがない子供が引き取られる場所という認識もあった。

 そんな子供達はそのまま神官になるのだと思っていた。


 オレ達《庶民》は読み書きと簡単な計算を神殿で習うけど、それだけにとどまらず職業訓練がなされ、自立の手助けまでしてるとは思いもしなかった。


 神殿がお金を貸してくれる場所だなんて、知ってる人、多分殆どいないよ?


 餅は餅屋というように、金は金貸し屋だって思いこんでいた。



 リメールの『羽魚亭』の若女将アンナさんは、サラが神殿にいた時のルームメイトだったのだそうだ。それで彼女が神殿出身者なのだと知った。


 アンナさんにはめちゃめちゃ質問攻めにされた。


 アンナさんもサラが好きなんだなぁと思った。アンナさんの方が歳下に見えたが、彼女の方が姉のような感じだった。


 すごく心配しているのが感じられた。サラを泣かせたら許さないからと、しつこく言われた。つまりは、泣かさなければ一緒にいて良いってことでいいのかな?アンナさんのお眼鏡にはかなったということなのかな?



(後編に続く)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

小噺】

セルは生粋の庶民代表です。

彼が愚かなのではなく、学力の問題ですね。

セルは塩知識以外は読み書き簡単な計算と一般常識と、小学生レベル。

対して神殿で学んだ人は期間や本人のやる気にもよりますが高卒か分野によっては専門学校位の差がある感じです。

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