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タビス閑話集  作者: オオオカ エピ
六・五章 琥珀の契約
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[※]□月星暦一五四四年五月〈ノロケ愛〉【アリアンナ✕ペルラ✕レイナ】

【ネタバレを含みます。閑話〈迎えた朝〉読了後にお読みください】

【ネタバレを含みます。閑話〈迎えた朝〉読了後にお読みください】

□アリアンナ


「朝の騒ぎは、そういうことね」


 レイナの短く切り揃えられた髪を見て、アリアンナは笑みをこらえつつも、労る視線を隣のペルラに向けた。


 婚礼の為に、ペルラとハールは苦心してレイナに髪を伸ばさせてきた。

 願わくば、このまま伸ばしてもらいたかったペルラ達だったが、式が終わった翌朝に、その望みは儚くも途絶えた。


「まさか、アトラス様に短くされるとは思いませんでしたよ。あんなに苦心して伸ばしましたのに」


 ペルラは苦々しく口元を歪める。

 

「怒られるって判っていても、結局は私の希望を叶えてくれるのがアトラスよね」


 いきなり、盛大に惚気られた。


「アトラスのそういうところは、誰にも真似できないわね」


 レイナは胸を張って断言した。

 全く悪びれていない。


 そこに、レイナの揺るがない信頼を見てアリアンナは微笑んだ。

 あの兄が彼女を選んだわけだと、妙に納得する。


 アトラスはレイナに甘い。

 彼女の為ならば、それがどんなことでも矢面に立つことを厭わない。


 ペルラが深く深く溜息を吐いていた。


「驚きすぎて、出てきちゃうかと思いましたよ」


 ペルラはそう言って、大事そうに大きなお腹を撫でた。


 ペルラは現在、産休中である。


 前日は、夫であり筆頭貴族ファルタンの一員であるライの伴侶として、式に出席していた。


 今はレイナの友人として、アリアンナとのお茶会に同席している。


 妊婦中でも問題のないお茶を口に含み、ペルラはアリアンナを見つめた。


「気になっていたのですが、アリアンナ様。その、ハイネで良いんですの?」


 月星の王女相手でも、はっきり聞いてしまえるのがペルラである。


「アリアンナ様でしたら、引く手数多でしょうに」


 なぜハイネをと、ペルラは本気で首をかしげ、レイナも同意する。


「あなた達。目が肥え過ぎているようだけど、ハイネもスペックは悪くないわよ」


 アリアンナは呆れた声を出すも、二人の言い分も判らなくはない。


 ペルラ自身が超弩級の美人である。その夫、ライ・ド・ネルトもなかなかの美丈夫。

 レイナに至っては、アトラスが好みの標準ならば、ハイネが物足りなく思えるのも無理はない。


「でも、ハイネにロマンスを求めるのは望み薄だと思うな」

「気の利いた甘い言葉の一つも言えないでしょうし」


 レイナもペルラも、幼馴染とは言え、随分な言い様である。


 アリアンナはハイネを好ましく想っている。

 公言こそしていないが、アリアンナははっきりと態度で示しており、共通認識として広まっていた。


 アリアンナは苦笑しつつも、意中の男性を弁護することにした。


「あの人の言葉は飾らないの。だからこそ良いのよ」


 アリアンナに言い寄ってくる者の言葉は、男女問わずに虚飾に塗れている。

 その中から本心を見極め、言葉の奥に隠れる意図を探り、的確な言葉を返すやり取りは楽しい。


 だからといって、アリアンナもさすがにプライベートでまで持ち込みたいとは思わない。


「それに、ハイネの言葉には裏表がないの」


 それがどれだけすごいことか判る? とアリアンナは言葉を重ねた。


「この私を前にそれが出来る。充分称賛に値するわよ」

 

 そう、にっこり笑うアリアンナを前に、レイナとペルラは顔を見合わせた。

 

 ハイネに、そういう観点で需要があるとは思わなかったと、二人の顔には戸惑いの色が浮かんでいた。


 月星の社交界を知らないペルラにはピンとこないのかも知れない。

 レイナも、実感するにはあと三回位は出席する必要がありそうだ。

 

 アリアンナを前にしてハイネは気負わない。

 だから、アリアンナもハイネとは飾らない言葉で話すことが出来る。

 話していて楽な相手というのは、アリアンナにとって、何よりも得難い資質なのである。


「それに、ハイネには『伸びしろ』があるもの」


 調教のしがいがあるのだと、アリアンナはニヤリと笑った。

 王女らしからぬその顔が、他ならぬアトラスそっくりだと、レイナが苦笑する。


 アリアンナは紅茶で口を潤すと、ペルラに顔を向けた。


「ペルラさんは、ライさまのどこに惚れたのですの?」


 初めて竜護星に来た時に、ファタルのファルタン邸に数日滞在したアリアンナは、当然ペルラの夫ライとも面識がある。


 いきなり振られてもペルラは動じなかった。

 ティーカップを置いて、ペルラは妖艶に微笑する。


「そうですね。⋯⋯女性を見る目があるところでしょうか」


 すまして答えるペルラに、アリアンナは唖然とし、レイナは盛大に吹き出した。


「さすがはペルラ。敵わないなぁ」


 

 これが、愛を結実させた女性の余裕なのだろうか。

 恋を楽しんでいるアリアンナには、まだ到達していない領域である。


 究極の惚気をくらって、アリアンナもレイナも敗北表明をするしかなかった。



〈ノロケ愛〉完


三人でもっとわちゃわちゃする話にしたかったのですが、既婚者二人を前にアリアンナさんちょっと分が悪かったようです。

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