■月星暦一五四三年五月〈迎えた朝〉
後でアトラスはペルラにめちゃめちゃ怒られたことでしょう 笑
月星暦1543年5月⑥〈宣誓〉翌朝の話です。
「お願いがあるの」
婚礼式の翌日、夫婦の寝室で初めて迎えた朝、アトラスの胸にもたれかかりながらレイナが言った。
「髪を切って欲しいの」
レイナにしては珍しく肩まで伸びた髪を、無意識に弄んでいたアトラスの手が止まる。
「現在のも悪くないけどな」
「アトラスは長い方が好き?」
「髪型なんて、見苦しくなければ本人好きにすればいい」
「なら切って。もうあれが私の髪型だから」
ペルラとハールが、このままレイナの髪を伸ばそうとしているのはなんとなく察していた。
「それ、絶対俺が怒られるやつだろ」
「一蓮托生でしょ」
レイナはさっさ寝台から降りると、鏡台の前に座る。
「おい、せめて何か着ろ」
「どうせ服に付くでしょ」
「目のやり場に困るだろ」
ガウンを引っ掛けて寝台から出たアトラスは、部屋を見回した。
今まで寝ていた寝台からシーツを引っ剥がすと、レイナの肩にケープのように掛けた。
どうせ洗うのだから、毛だらけになっても構わないだろう。
「ちょっと待ってろ」
廊下ではなく、直接繋がっている方の扉から隣の自室に向かうと、鋏と櫛を持ってきた。
旅の間に使っていたものだ。
レイナの後ろに立つと、乱れた髪を丁寧に梳る。
「良いんだな?」
一応確認を取ると、力強くレイナーは頷いた。
少し惜しい気もしたが、アトラスは黙って従う。
「長さは?」
「前と同じくらい」
「了解」
こうやってレイナの髪を触るのは二年ぶりぐらいになるが、指が覚えている。
旅の間、アトラスがずっとレイナの髪を整えていた。
まず横の毛を顎下辺りに合わせ、その長さを基準に前下がりになるよう、後ろの方も整えていく。
指の間に毛を挟みながら長さを揃え、時には鋏を縦に使って軽さを出しながら、シャキシャキと小気味良い音を立てて切っていった。
はらはらと切り落とされた毛がケープ代わりのシーツの上に舞い落ちる。
髪を切っている最中、鏡越しにずっとレイナはアトラスを見ていた。なんだか楽しそうな顔をしている。
「こんなもんかな」
切り終えると、短くなった頭をクシャッとかき回した。
髪の間に残っていた切れ毛がふわりとシーツの上に落ちる。
「うん。これぞ、私って感じ!」
「どんな髪型でも、お前はお前だけどな」
満足げなレイナにアトラスは苦笑する。
アトラスは毛が散らないように注意してシーツを丸めると、バルコニーに向かった。
外に向けてはたくと、切り落とされた髪が朝日にキラキラと光りながら風に流されていく。
振り返ると、レイナが微笑んでこちらを見ていた。
アトラスはため息をついた。
「だから、さっさと服を着ろ!」
※※※
やがて食事に呼びに来たペルラの絶叫が、城内に響き渡ったのは言うまでもない。
完