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タビス閑話集  作者: オオオカ エピ
二章 王女来訪編
3/9

□月星歴一五四ニ年七月〈内緒話〉

■月星暦一五四ニ年七月⑰〈白状〉の後

月星に戻ったアリアンナとアウルムのエピソードです

【□アリアンナ】 


月星首都アンバルの城に戻ったアリアンナは、その足で王の執務室に向かった。


 ノックの音に、応対に出てきたのはネウルス・ノワ・クザン。兄妹の父方の従兄弟にあたり、月星王の右腕として優秀な人材ではある。


 アリアンナを視認したネウルスは、青みがかった灰色の目でじろりと見下ろした。

「陛下はお仕事中です」

 ネウルスはにべもなく言い放つが、いつものことである。


 アリアンナはネウルスの脇をするりと抜けて、アウルムに駆け寄った。


「アウルム兄様!ただいま帰りましたわ」

「お帰り、アリアンナ。今回も楽しんだようだね」


 アリアンナの無断外出を咎めることもなく、アウルムは笑顔で応じた。


「ええ、兄様!今回は特に!私、新しいお友達が出来ましたのよ」

「それは良いことだね」

「本当に。お話するお時間、くださるかしら?」


 背中に刺さるような視線を感じた。

 振り向けば、苦虫を噛み潰したような顔で睨見つけるネウルスの顔があるに違いない。


 これもいつものことだから気にしない。


「では少し休憩にしよう」

 アウルムは室内にいた官に声を掛けた。


 遠回しに人払い。


 ぞろぞろと出て行く官達を横目に、やはりこうなったかというネウルスの顔。


(あなたもどっか行きなさいな!)


 そう念じながらネウルスを見ると、あからさまにため息をついて退出して行った。



「兄様、最近温度差が激しくなりましたが、お風邪などひいてませんか?悪質ですと頭痛や幻聴、気鬱などに悩まされるそうですよ」


「まったくと言ってないな。強いて言うなら、ネウルスの小言が五月蝿いくらいだ」

「なら良かったですわ」


 アリアンナは頷いた。


 魔物に憑かれているかの判断の目安になるかもと、ハイネに聞いておいた情報である。

 アウルムは憑かれていないと判断し、話を進めることにした。


「兄様、新しいお友達は、とても可愛らしい女性なの」


 アウルムがアトラスの状況を大体把握していようことは、ヴァルムが現れたことからアリアンナも気づいている。


「一緒に旅をしていたという方が彼女をとても気に入っていて、彼女の方もまんざらじゃないみたいなのに、二人して気のない素振りをしているのですもの。微笑ましくって」


(意訳:あのアトラスお兄様が彼女のこと、好きみたいなのよ!彼女の方もおそらく。丸わかりなのに二人して隠してるつもりなのがもどかしくって!笑ってしまいそうでしたわ)


 アウルムが驚いた顔をした。

「誰がを好む姿勢は尊いね」 


(意訳:アトラスが欲求を持てるようになったことは喜ばしいね)


 アトラスはタビスゆえに、自身の欲求というものを無闇に口に出せない立場にあった。

 女神のご意思と大袈裟に受け取る者がいるからだ。

 彼がいつしか己を抑え込むようになってしまったのを、兄妹は知っている。



「そのお友達からお手紙を預かって来ましたわ。兄様に宜しくですって」


 アリアンナは兄の前に、レイナからの書簡を置いた。

 月の大祭の招待への礼と受諾の親書である。


『資料内容 潜伏 注意』


(意訳:魔物は既に潜伏している。注意されたし)


 中にアトラスの筆跡の、短いメモ書きを見つけてアウルムの顔が一瞬険しくなった。


 続けて、アリアンナはヴァルムからの報告書を渡した。


 ヴァルムは大祭初参加のレイナを案内するという名目で、月星入りする。

 それまで竜護星に留まること。

 レイナがアトラスを月星に送り届けるという『形』になるだろうこと。

 『問題事』には対抗手段があること。

 普段と言動に違和感のある『該当者』候補に気を配ってほしいことなどが、詳細には触れずにザックリと記されている。


 アウルムは勘が良い。

 文面以上のことを読み取ってくれたらしい。

 アリアンナに頷いてみせる。

 

「今年の大祭は賑やかになりそうだな」

「そうですね。私も楽しみです」



 執務室を出ると、案の定仏頂面で腕を組んで壁に寄りかかっているネウルスが居た。


 声は漏れていないと思うが、意図を察し対応してくれたアウルムにアリアンナは心の中で感謝した。


 ネウルスはめんどくさいのだ。

 彼には『魔物』は理解出来ない。言ったところで、寝ぼけているのかと嫌味を言われるだけだろう。


「珍しくお早いですね」

 

 鋼の心と鋼鉄の脳味噌で出来てるネウルスに、魔物が付け入る隙があるようにも思えないが、一応聞いてみる


「ネウルス、最近あなた頭痛とかないかしら?」

「体調管理も出来ない者が、陛下のお側に仕える資格はありません。物理的な頭痛の種なら目の前にいらっしゃいますがね」


 やはり通常運転のネウルスだ。


「ならいいわ」


 小言が始まりそうな気配を察して、アリアンナは早々に逃げ出した。


 どうもネウルスとは昔から反りが合わない。


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