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タビス閑話集  作者: オオオカ エピ
一章 国主誕生編
1/9

□月星暦一五四一年〈痩せ我慢〉

後から本編に組み込んだ閑話集。

見落とし防止にこちらにも作りました。

内容は変わりません。


〈継承者〉直後のエピソードです

□ハイネ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「じゃあお大事に」

「おぅ!」


 レイナが退出し、扉が閉まった。足音が遠ざかっていく。


「行ったか?」

「はい」


 モースの返事を聞くや、アトラスの身体がぐらりと揺れた。

 慌てて身体を支えるモース。

 ハイネも、背中に挟んでいた枕を拭き取って、アトラスが横になるのを手伝った。


 アトラスの息遣いが荒い。

 先ほどまで普通に話していたとは思えないほど、酷い顔色。 

 額には油汗が浮かんでいる。



「どういうこと?」

「まだ起き上がっていられる身体じゃないのですよ」


 ハイネの質問に、苦りきった表情でモースは応えた。


「まったく、無理をなさって……」

「こんなの、無理のうちに入らない。それに、痛みには慣れている」

「そんなものに慣れる人なんていません!」


 モースがピシャリと言い切った。珍しく怒っている。


「貴方は死にかけたのです。自覚を持って下さい。しばらく絶対安静ですよ」


 ふふっと笑みを漏らしてアトラスは目を閉じた。


「俺の、痩せ我慢ひとつで、あいつの気持ちが楽になるなら、安い、もん、さ……」


「アトラス?」

「眠ったようです」


 モースはため息をついて患者衣を捲り上げた。


 包帯には新しい血が滲んでいる。

 アトラスの身体には、他にも古い傷痕がか見えた気がしたが、ハイネが把握する前にモースは衣を戻した。


 血の気の引いたアトラスの白い顔に、呆れた視線を落としてハイネは口を開いた。


「一体、どういう育ち方をすれば、体に嘘なんてつけるんだ?」


「痛みを悟られないように過ごす日常が、この方にはあったということですよ」


 眉根を寄せて、モースが呟いた。

「おいたわしい……」

「じいちゃん……?」

「いえ……」

 ハイネの呼びかけにモースが動揺した。失言だったという顔。

 どういうことか尋ねようとして、モースのそれを許さない気配にハイネは押し黙る。



 レイナを連れてきた月星人。

 名はアトラス。

 相当な剣の使い手らしい、というくらいしか今のところ、この男の情報は無い。


 なんとなくだが、祖父は彼が何者か知っているのでは、とハイネは思った。

 アトラスに対する態度がやけに丁寧な気がする。


 だが尋ねても教えてはくれないだろう。今のやりとりからも察せられる。


(くそっ!なんなんだ、こいつは!)


 こんなカッコいい痩せ我慢見せられちゃ、レイナが頼りにするのも解る気がして、面白くない。


 ハイネはもやもやするものを胸に抱いて、病室をあとにした。


〈痩せ我慢〉完


□月星暦一五四一年七月㉒〈継承者〉の直後

□月星暦一五四一年七月㉓〈忠臣 前〉の前


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